前回に引き続き、妊活前の準備、プレコンセプション(preconception)についてもう少し、特にウイルス感染症についてお話しましょう。
妊娠中にお母さんがかかると赤ちゃんに影響のある感染症として、まず風疹が知られていますね。風疹は風疹ウイルスによって引き起こされる感染症です。特徴的な発疹・発熱・リンパ節の腫大といった症状がありますが、3日程度で消えるため軽いはしかという意味合いで三日ばしかなどと呼ばれます。症状は軽いので罹患したことに気がつかないこともあるくらいですが、妊娠初期20週までにお母さんがかかると赤ちゃんに難聴や心奇形、白内障などの先天性風疹症候群が起こる場合があります。このため妊娠初期の検査で必ず調べますが、この初期の検査で風疹の抗体が少ないことが分かったところで、風疹ワクチンは生ワクチンですので妊娠中に使用することはできません。よって妊娠前に風疹の抗体価を調べ、少ない場合は妊娠する前にワクチンを接種し抗体を増やしておくことが大切になります。ワクチン接種後は2カ月は妊娠しないようにしてください。でも、もし妊娠していると知らずにワクチンを接種したとしても、それを理由に妊娠を中断する必要はないとされているので、「妊娠していると知らずにワクチンを接種してしまった」という人も、まずは医師にご相談ください。また同居の方も抗体を持っていることが重要ですので、家族で抗体検査を受け抗体が少ない場合はワクチン接種を受けておきましょう。抗体検査、ワクチン接種についてはご本人のみならず、パートナーの検査や接種の助成をしている自治体もありますのでご確認下さい(市川市はご本人とパートナーにも助成があるようです)。
https://www.city.ichikawa.lg.jp/pub10/1111000113.html
次にはしか(麻疹)です。このコラムにタイムリーにと言いますか、このところ流行してきて要注意です。麻疹というと子供の病気と思われがちですが、感染力が強いため大人も、とくに妊婦さんが感染すると流産や早産を引き起こすことがあるので注意が必要です。はしかは、麻疹ウイルスによって引き起こされる感染症です。麻疹を発症すると、まず38℃前後の発熱が2〜4日続き、同時に咳や鼻水、喉の痛み、結膜炎のような症状、頬の裏側あたりに小さな白い斑点(コプリック斑といいます)が現れます。熱はいったん下がりますが、半日程度後、今度は39℃以上に熱が上がります。さらに耳の後ろや首などに発疹が現れ、それが全身へと広がっていきます。このように風疹に比べ症状は激烈ですが、風疹などとは違い、麻疹が原因でお腹の赤ちゃんに先天的な病気や障害引き起こすことはほとんどありません。ただし妊娠中の女性が麻疹に感染すると、流早産、低出生体重児の可能性が高まるといわれていますので、妊娠や出産の際に注意すべき感染症といえます。また風疹と同じく妊娠中は麻疹ワクチンの接種ができませんので、妊娠前のチェック、接種が望まれます。
その他、様々あるので、全てを網羅するブライダルチェックを受けて頂くのもいいでしょう。
いずれにしましても、「妊娠してからケアしても遅いということが少なからずある」ことがお分かりいただければ幸いです。日本の周産期死亡率や新生児の合併症の低さは世界でもトップレベルにありますが、我々にはまだまだ出来ることがあると思っています。また全体の確率がいかにトップレベルでも、ご自身の身にあるいはお子さんの身に何か起きてしまえば、ということがあります。出来ることはすべてやっておくという意味でも、是非このプレコンセプションの重要さをご理解下さい。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之