このコラムもちょうど1年になりました。
今日は妊婦さんに接種する RS ウイルスワクチンについて
最近歌手のさだまさしさんが出演しているRSウイルス感染症の予防啓発CMが流れていますね。このプロジェクトは、60歳以上の高齢者を対象としてRSウイルス感染症についての認知度を高め、予防啓発活動を行うものです。
RS ウイルス感染症は、主に新生児~小児がかかる感染症で、⽣後 1 歳までに 50%以上が、2 歳までにほぼ 100%が初感染します。症状は感冒症状から、上気道症状(⿐閉、⿐⽔、くしゃみ)、下気道症状(咳、呼吸困難、喘鳴)まで様々です。成⼈は⾵邪程度で済むことがほとんどですが、特に高齢者や基礎疾患を持つ方々には重症化するリスクが高い疾患ですので、高齢者の方々にはワクチンを接種して頂いた方がよいだろうということでさださんのCMになったのでしょう。
ただ、小児の感染症であることは変わりなく、特に生後6 か⽉未満では、重症化すれば肺炎、無呼吸、急性脳症などを引き起こしますし、その後の気管⽀喘息との関係性も指摘されていますので、やはりこの時期のお子さんにとって十分に注意しなければならない疾患といえます。しかしRSウイルスに感染し症状が出てしまっても治療は有効な治療薬はありません。ですから予防が重要になります。そのため現在、早産児や先天性⼼疾患など基礎疾患のあるハイリスク児に対しては、児に予防的に接種するワクチン(シナジス)が知られています。しかし、基礎疾患のない正期産で⽣まれたお子さんも重症化する可能性がないとはいえないので、妊娠中のお母さんに接種して母体の免疫を活性化させ、胎盤を介して赤ちゃんに中和抗体を伝えることで、新生児および乳児におけるRSウイルス感染症を予防する役割を果たすワクチンが開発されています。これまで妊婦に接種可能なワクチン対象疾患として、インフルエンザ、新型コロナウイルス、百⽇咳などがありましたが、本年 1 ⽉ に「妊婦への能動免疫による新⽣児及び乳児における RS ウイルスを原因とする下気道疾患の予防」の適応で、組換え RS ウイルスワクチンが製造販売承認を取得しました。このワクチンを妊娠 24 週から 36 週の妊婦に 1 回0.5ml を筋⾁内接種します。臨床試験において重度のRSウイルス関連下気道感染症に対して、生後90日で約80%、生後180日で約70%の有効性が示されております。ただし⽣後6ヵ⽉までの有効性が検証されていますが、⽣後6ヵ⽉以降の有効性は確⽴していません。また接種後 14 ⽇以内に出⽣した児についても、移⾏抗体が⼗分でない可能性があります。
今後、我が国の妊婦に対して接種の機会が増えていくものと考えられますが、具体的な運用、他ワクチンとの同時接種の可否や、⽇本での接種後の⻑期的な児への影響など現時点では不明な点もありますので、当院でも推移を見極めながら勉強会等を通じて接種に向け準備を進めているところです。
また詳細をお知らせしたいと思います。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之