ドクターコラム

2024.07.05更新

先々週、先週と、今、急増している性行為感染症、梅毒についてお話してきました。未治療で放置すると神経、心臓、血管の症状が現れることがあること、初期には症状が出ないためごく普通の生活をしていても入ってくる感染症だと思わなくてはいけないということ、そして治療などにつきお話しました。

今日は梅毒シリーズの最後、妊娠中の梅毒感染症について。
梅毒の感染が急増していることはすでにお話しましたが、この傾向が実は10〜20代の女性に特に顕著であることが分かっています。つまり妊娠中のお母さんが実は梅毒に感染していたということが少なくないということです。妊娠中の感染症は赤ちゃんに移行する可能性もあるため注意が必要です。通常、お母さんが何らかの感染症にかかってしまってもその病原菌は胎盤によって阻止されるので、多くの場合感染が胎児に及ぶことはありません。しかし残念ながら梅毒の原因菌である梅毒トレポネーマは胎盤を通過してしまうのです。ですから母体が梅毒に感染していた場合、梅毒トレポネーマは胎盤を介して胎児に移行してしまいますので、胎児感染が起こる可能性があります。胎児に感染する可能性が高まる時期ですが、胎盤が完成するのは妊娠5ヶ月以降ですから、感染時期はほとんどの場合妊娠5ヶ月以降です。逆に胎盤が完成する前の妊娠4ヶ月より前の時期には感染が起こりにくいとされています。なので妊娠初期には妊婦さん全員に対して必ず血液検査で梅毒のスクリーニング検査を行います。赤ちゃんへの梅毒の感染は胎盤が完成する前の時期には起こりにくいので、感染が確認されても妊娠5ヶ月までに治療を開始すればいいわけです。
治療をしなかった場合には流産・死産のリスクが高まりますし、無事に出産に至ったとしても赤ちゃんに感染の症状が出ることがあります。赤ちゃんには発育不全、皮膚や骨の異常、知能や運動の異常などが起きる可能性があり、このような母児感染による梅毒感染を「先天梅毒」といいます。近年この先天梅毒の報告数も増えており、さらに梅毒に感染するとHIV感染症の発症リスクが上がるといわれていますので早めの検査・治療が大切です。。
治療はペニシリン系薬剤であるアモキシシリンを梅毒の第1期で2~4週間、第2期で4~8週間投与します。治療で使われる抗菌薬は、胎盤を通過して赤ちゃんに対しても作用することを期待して投与されるため、赤ちゃんに安全な薬が選択されます。
感染したママから生まれた赤ちゃんに梅毒があるかどうかを判断するには、身体診察を行って赤ちゃんに潰瘍や発疹がないかを調べます。赤ちゃんに潰瘍や発疹があれば、発疹部位より組織を採取したり、臍帯血や赤ちゃんの血液を検査し、梅毒の有無を確認して調べます。新生児・乳児・小児が感染している場合の治療は、ペニシリン系薬剤の静脈内または筋肉内注射をします。
なお、母乳による感染を心配するお母さんもいますが、母乳からは感染しません。

以上、三回にわたり急増している梅毒についてお話しました。あまりなじみのないお話であったかと思います。ご自身、大切な方、特に赤ちゃんを守るために、正確な情報を身に着け、適切な行動をお願いします。
根本産婦人科医院  院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

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