今年になり症例数が増え報道が多くなってきているせいか心配されている患者さんが多くおられますので、今回は劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)についてお話しましょう。
劇症型溶血性レンサ球菌感染症は、溶連菌の一種であるA群溶血性レンサ球菌が原因で発症する感染症です。通常は無症候のことも多く、ほとんどは咽頭炎や皮膚の感染症にとどまります。しかしまれに、血液、筋肉、肺など通常は細菌が存在しない組織にまでレンサ球菌が侵入してしまいますと感染が全身におよび、急激に症状が進行し重篤な状態となることがあります。発症すると短時間でショック、多臓器不全に至り、30%という高い死亡率が報告されています。致死率が非常に高く、短時間で急激に進行するので、「人食いバクテリア」と呼ばれます。今年の患者数は1000人を超え、統計を取り始めてから最多だった去年の941人をすでに超えています。そして5人の妊産婦の死亡が報告されています。
劇症型溶血性レンサ球菌感染症は稀な感染症であり、A群溶血性レンサ球菌に感染しても必ずただちに重症化するものではありません。ですから重症化する場合の早期の診断と適切な治療が重要です。急速に広がる皮膚の赤みや熱感・腫れがある、痛みの程度が強い、または赤みのある部位を超えた痛みがある、意識がはっきりしない、などの場合にはためらわずに受診してください。
言うまでもなく予防が重要になりますが、この劇症型溶血性レンサ球菌感染症に対する予防ワクチンは残念ながらまだありません。従いまして原因菌であるA群溶血性連鎖球菌の感染経路を遮断することが何より大切です。A群溶血性連鎖球菌は接触感染と飛沫感染によって伝播しますので、これまで通りの感染対策、つまりうがい、手洗い、マスクの徹底をお願いします。また上に述べました通り、「通常は細菌が存在しない組織に侵入することで、急激に症状が進行し重篤化する」ので、傷ができた場合にはそこから体内に入らないように傷をきれいに保つようにして下さい。
感染者数が増加したはっきりとした原因はまだ分かっていません。いまのところ、新型コロナが5類化し感染対策が緩和したことに加え、インバウンド・アウトバウンドにより病原性が高い株が国内へ入ってきた影響が要因の一つとして考えられています。妊産婦の感染につきましても、新型コロナの感染対策が取られていた3年間は死亡例はありませんでしたが、感染対策が緩和されたとたんすでに5名の死亡が確認されているのです。感染経路をみると、特に妊婦は7割以上が鼻やのどの「上気道」からの感染が推定されたことから、新型コロナが感染拡大していた期間は、マスク着用や消毒、手洗いなどによって感染が抑えられていたことが考えられます。繰り返しますが、特に妊産婦さんは引き続きこれまで通りの感染対策、うがい、マスク、手洗いをお願いします。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之