5/31のコラムでRSウイルス感染症についてお話しました。読んでくださった方々からご質問を頂きましたので、5/31のコラムも参照して頂きながら、今日は再びRSウイルスについて。
まず「RS ウイルス感染症は、主に新生児~小児がかかる感染症で、⽣後 1 歳までに 50%以上が、2 歳までにほぼ 100%が初感染します。」と述べました。100%ということは、このRSウイルスにかからない人、つまりこのウイルスから逃れられる人はまずいないということです。子どもはこれらのウイルスに暴露しながら発達していきますし、特にこのRSウイルス感染症はほとんどの子が軽症ですみますが、重症化すると厄介です。ある施設からは、RSウイルス感染症の入院患者数はコロナの6.5倍、ICU入院となってしまった呼吸器感染症の50%がRSウイルス感染症であるという報告もあったそうです。小児科医の友人はRSウイルス感染症が一番やっかいという印象だと言っていました。
「その後の気管支喘息との関係性も指摘されています」とも述べました。ちょうど生後半年くらいでお母さんからの免疫が少なくなり、かといって自分の免疫も未だ十分ではない時期にウイルスに感染すると、分泌物やウイルスの残骸が肺の下気道といわれる末端に溜まります。この下気道は空気の通り道の末端で大変に狭くなっています。成人でしたら狭いとっても容易に閉塞することは無く感冒症状程度で収まることが多いですが、新生児の時はまだとても狭いので狭窄してしまうわけです。この下気道の炎症による呼吸器症状を細気管支炎といいますが、乳幼児の細気管支炎の80%の原因菌がRSウイルスです。狭い時期につまってしまった気道が成長しても広がらず、息が吸えない、吐けない、つまり喘息になってしまうことは容易に想像がつくことでしょう。
そこで、「問題なのはRSウイルスに感染し、症状が出てしまっても有効な治療薬は無いということです。ですから予防が重要になります」、「児に予防的に接種するワクチン(シナジス)が知られています」というお話もしました。ですがこのシナジスは、早産児や先天性⼼疾患など基礎疾患のあるハイリスク児に対してのみ保険適応があり、いわゆる正期産で⽣まれた基礎疾患のないお子さんには使うことが出来ません。しかしRSウイルス感染症で入院になるのは80%が健常児であるとの報告もあり、まさに健常児に対するRSウイルス感染症対策が求められてきたわけです。
そのため、妊娠中のお母さんに接種して母体の免疫を活性化させ、胎盤を介して赤ちゃんに中和抗体を伝えることで、新生児および乳児におけるRSウイルス感染症を予防する役割を果たすワクチンが開発されました。次回はこのワクチンについてもう少し。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之