ドクターコラム

2024.08.09更新

前回このコラムで、
・RS ウイルス感染症は2 歳までにほぼ100%が感染する。つまりこのウイルスから逃れられる人はまずいない。
・多くの場合軽症で済むが、症状が出てしまっても治療薬は無く重症化するとコロナの数倍厄介である。
・ハイリスク児に対してのみ予防的に接種するワクチンはあるが、健常児に使えるワクチンは無いにも関わらずRSウイルス感染症で入院になる80%が健常児である。
というお話をしました。

そこで今回は、お子さんのために妊娠中のお母さんに投与するRSワクチンについて。
本年1 ⽉に「妊婦への能動免疫による新⽣児及び乳児におけるRS ウイルスを原因とする下気道疾患の予防」の適応で、組換えRS ウイルスワクチン(アプリスポ)が認可されました。妊娠24 週から36 週の妊婦さんに1 回0.5ml を筋⾁内接種することで母体の免疫を活性化させ、胎盤を介して赤ちゃんに中和抗体を伝えることにより、新生児および乳児におけるRSウイルス感染症を予防するということです。
妊娠中にワクチンを打つなんて、と心配されるのもごもっともです。
そこで妊娠前のお母さんにワクチンを接種するのはどうでしょう。この方法はお母さんの抗体価を上げお母さんの免疫を高めることは出来ます。しかし残念ながら抗体量は時間と共に減少してしまいます。問題なのは、RS感染症が重症化するのが生後1年未満、特に半年未満が多いので、この時期にお子さんに多くの抗体があることが望ましいわけですが、いつ妊娠が成立し出産となりお子さんがこの時期を迎えるかが分からないということです。妊娠前にせっかくワクチンを接種しても、妊娠後お母さんの血中にどのくらいの抗体量が確保されているかが分からないので、胎児に十分な量の抗体を送ることが出来るという保証はないということです。またこのRS感染症、以前は秋から冬の流行と言われていましたが、コロナ後は流行時期が無くなり、つまり1年中用心しなければならないウイルスになりましたので、接種に適した時期もないと考えられています。従いまして妊娠前の投与はあまり効果が期待できないので適応になっていません。
では出産後にお母さんに接種し、母乳を介して抗体を赤ちゃんに送るのは?という方法ももちろん検討されましたが、残念ながら有効性・確実性は確認されませんでした。
そこで妊娠中に接種するのが望ましいということになります。
安全性についてですが、早産、死産、低出生体重児、妊娠高血圧症候群等、接種しない場合に比べても有意な差はないことが分かりました。もちろん注射を打つことによるお母さんの疼痛等のデメリットはあることがありますが、これは一般的なワクチンと同じ範囲です。ちなみに現在リスクのあるお子さんにだけ投与しているワクチン(シナジス)の予防効果に比べると、この妊婦ワクチンは数倍高い濃度でお子さんの抗体価が上がることも分かりました。

ということで、当院でもこのワクチンを接種する体制は整えました。ただまだ公費負担には至っていないので、申し訳ないことに経費が35000円前後になると思われます。皆さんにお渡しするパンフレットも用意していますし、ちなみに、お子さんがICUに入院すると、平均的な入院日数の試算で、この間の医療費負担・親が働けないことによる経済的な損失等、実質的な経済負担が約13万円になるという試算も出ていますので、参考にして検討いただければと思います。 
※根本産婦人科は8/11-8/15休診となります。もちろん、この間も医師、助産師、看護師は24時間常駐してますので、特に妊婦さんは何か心配なことがあったら遠慮しないで電話下さい。
このコラムも次回はお休みです。
根本産婦人科医院  院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

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