ドクターコラム

2024.07.26更新

赤ちゃんは生後何日かすると顔や白目が黄色くなります。新生児黄疸と言いほぼすべての赤ちゃんに起こる現象と言っていいでしょう。この新生児黄疸、様子を見ていいものかどうかとご心配される方が多いので、今日は新生児黄疸についてお話しましょう。

この赤ちゃんの顔や眼球が黄染される黄疸ですが、主にビリルビンという物質が体内に蓄積することにより引き起こされます。ビリルビンは赤血球の中にあるヘモグロビンから作られます。赤血球が寿命を終え壊されると赤血球内にあったヘモグロビンが血液内に放出され、さらに血中に出されたヘモグロビンも壊れそこからビリルビンが生成されるというわけです。本来このビリルビンは血流に乗り肝臓に運ばれ、肝臓で分解され胆汁の成分になり、その後十二指腸や小腸を経て尿や便として排出されます。黄疸の強い子の尿の色が濃い黄色に変化したり、便の色が灰色っぽくなるのはこのためです。
残念ながら新生児の肝臓は未熟で、ビリルビンの代謝が効率的でないため、ビリルビンが体内に蓄積しやすくなります。こうしてビリルビンの血中濃度が上がると、ビリルビンは黄色い色素ですので皮膚や眼球を黄染するわけです。血中のビリルビン濃度が高い状態が続くと、ビリルビンが脳に及び核黄疸(脳性麻痺などを引き起こす可能性がある状態)に繋がることがあるため、早期発見・早期治療が重要です。
生後数日から2週間程度で、多くの赤ちゃんが一時的な黄疸を経験します。これを生理的(心配ない)黄疸と言います。赤ちゃんの肝臓が成熟すると、ビリルビンを上手に代謝されるようになるため黄疸は自然に消えていきます。また母乳育児中の赤ちゃんに見られる黄疸の一種に母乳性黄疸があります。母乳に含まれる成分が赤ちゃんの肝臓の働きを抑え、ビリルビンが分解されない状態が続くために起こります。通常生後1ヶ月から3ヶ月まで続くことがあります。ほとんどの場合問題ありませんが、黄疸が消失しない場合などはご相談下さい。いずれにしても赤ちゃんの成長と肝臓機能の発達に伴い黄疸は治まることが多いですが、症状が続く場合は早めに医師に相談しましょう
黄疸が長く続く場合は病的黄疸の可能性があります。病的黄疸は基礎疾患によるものです。例えば赤血球の異常、感染症、肝臓・胆管の疾患、母体からの抗体の影響などが原因となります。症状が長く続く場合は、医師に相談して下さい。病的黄疸かどうかは、黄染の程度、期間だけではなく、血中のビリルビン濃度を測定し判断します。ビリルビン濃度には日齢に応じた基準がありますので、その基準を超える場合には治療が必要な黄疸と判断されます。
治療はまずは光線療法。ビリルビンは特定の波長の青色光で分解されます。この波長は日光にも含まれますので、昔の人は黄疸が強い子は、お日様に当てれば治るということを知っていました。ただし、今は日光に当て過ぎた場合の不利益も分かっていますので、この波長を出す特殊なライトを保育器内で丸1日当て、ビリルビン値を下げます。下がりが悪い場合、元々のビリルビン値が基準よりもとても高い場合は基礎疾患検索・治療、また交換輸血となります。交換輸血とは、赤ちゃんの血液を一部交換することでビリルビンが減少することを期待するものです。

いずれにしても、判断に迷う場合は医師にご相談下さい。
根本産婦人科医院  院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2024.07.19更新

うっとおしい梅雨もあと少しでしょうか?
前回まで数回にわたってRSウイルス、梅毒、劇症型溶血性レンサ球菌感染症など、このところ増えてきたのでご注意頂きたい感染症についてお話してきましたが、この間にもう一つ、手足口病流行の兆しが顕著になってきました。近年大きな流行がなかったので、逆に感染したことのない方が増え一気に広がっていると考えられています。流行はあと1か月ほどは続く可能性があるようですので、今日はこの時期としては過去10年で最も多くなっている手足口病について。

手足口病は、コクサッキーウイルス、エンテロウイルスなどといったウイルスに感染することにより、口の中や手足の水疱性湿疹や発熱といった症状があらわれます。英語でも hand, foot and mouth disease と言います。同じなんだな、というよりは日本語名が安易な直訳なの?と思ってしまいますが、いずれにしても発症する部位を現わしています。保育園や幼稚園での集団感染がニュースで話題にのぼることが多いことから分かるように、子どもに多い感染症という印象です。
とはいえ、大人は絶対に感染しないというわけではありません。飛沫感染や接触感染、排せつ物からの感染などが経路として考えられるため、小さな子どもがいる家庭では、大人であっても手足口病にかかってしまったお子さんからうつることがあります。
ですので、特にお子さんがおられる妊婦さんには正しい知識を持って頂きたいと思います。まず、妊娠中に手足口病に感染してもウイルスそのものが赤ちゃんに影響を及ぼすことはないとされていますのでご安心を。ただし、妊娠中の手足口病感染は症例数が少なく大規模な研究成果はまだありません。従いまして胎児異常との正確な因果関係も医学的にはまだ未知であると言えます。ですから念のための注意は必要です。
残念ながら手足口病には特効薬がまだありません。が、症状は軽く、経過観察しながら自然に治まるのを待ったり、必要に応じて症状にあわせた治療を行ったりすればこと足りるケースがほとんどです。内科など別の病院を受診するときは必ず妊娠中である旨伝えてください。
治療薬はありませんので、いずれにしても予防が大切ということになります。手足口病は接触感染や飛沫感染によって広がるため、まずは基本的な風邪予防、つまりうがい、手洗い、マスクですね。親子ともども励行しましょう。
その上で特にお子さんが手足口病にかかっている場合、排便後にはとくにしっかり手を洗うように伝えましょう。手足口病は症状がなくなったあともしばらくはウイルスが体内に残っていますので、治ったあとも数週間は体液や便からウイルスに感染する可能性は否めません。特にお子さんがおむつをしている場合、おむつ交換時にはマスクやビニール手袋を使用する、外したおむつはすぐに包んで家の外のゴミ箱に捨てるなどして、家の中にウイルスが残らないように工夫をしましょう。吐しゃ物の片付けについても同様です。またタオルを分けるということも重要です。家族全員でひとつのタオルを使用しない、お風呂で一緒のお湯につからない、といったことも手足口病の対策になります。

妊娠中は抵抗力が低下していますので、特にお子さんがいらっしゃる妊婦さんは一応気をつけておきたいですね。妊婦さんが手足口病に感染する可能性は決して高いわけではなく、たとえ感染したとしても自然と治まる場合がほとんどです。心配し過ぎることはありませんが、心配しすぎず安心しすぎず、心配な時はいつでも医師にご相談ください。
根本産婦人科医院  院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2024.07.12更新

今年になり症例数が増え報道が多くなってきているせいか心配されている患者さんが多くおられますので、今回は劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)についてお話しましょう。

劇症型溶血性レンサ球菌感染症は、溶連菌の一種であるA群溶血性レンサ球菌が原因で発症する感染症です。通常は無症候のことも多く、ほとんどは咽頭炎や皮膚の感染症にとどまります。しかしまれに、血液、筋肉、肺など通常は細菌が存在しない組織にまでレンサ球菌が侵入してしまいますと感染が全身におよび、急激に症状が進行し重篤な状態となることがあります。発症すると短時間でショック、多臓器不全に至り、30%という高い死亡率が報告されています。致死率が非常に高く、短時間で急激に進行するので、「人食いバクテリア」と呼ばれます。今年の患者数は1000人を超え、統計を取り始めてから最多だった去年の941人をすでに超えています。そして5人の妊産婦の死亡が報告されています。
劇症型溶血性レンサ球菌感染症は稀な感染症であり、A群溶血性レンサ球菌に感染しても必ずただちに重症化するものではありません。ですから重症化する場合の早期の診断と適切な治療が重要です。急速に広がる皮膚の赤みや熱感・腫れがある、痛みの程度が強い、または赤みのある部位を超えた痛みがある、意識がはっきりしない、などの場合にはためらわずに受診してください。
言うまでもなく予防が重要になりますが、この劇症型溶血性レンサ球菌感染症に対する予防ワクチンは残念ながらまだありません。従いまして原因菌であるA群溶血性連鎖球菌の感染経路を遮断することが何より大切です。A群溶血性連鎖球菌は接触感染と飛沫感染によって伝播しますので、これまで通りの感染対策、つまりうがい、手洗い、マスクの徹底をお願いします。また上に述べました通り、「通常は細菌が存在しない組織に侵入することで、急激に症状が進行し重篤化する」ので、傷ができた場合にはそこから体内に入らないように傷をきれいに保つようにして下さい。

感染者数が増加したはっきりとした原因はまだ分かっていません。いまのところ、新型コロナが5類化し感染対策が緩和したことに加え、インバウンド・アウトバウンドにより病原性が高い株が国内へ入ってきた影響が要因の一つとして考えられています。妊産婦の感染につきましても、新型コロナの感染対策が取られていた3年間は死亡例はありませんでしたが、感染対策が緩和されたとたんすでに5名の死亡が確認されているのです。感染経路をみると、特に妊婦は7割以上が鼻やのどの「上気道」からの感染が推定されたことから、新型コロナが感染拡大していた期間は、マスク着用や消毒、手洗いなどによって感染が抑えられていたことが考えられます。繰り返しますが、特に妊産婦さんは引き続きこれまで通りの感染対策、うがい、マスク、手洗いをお願いします。
根本産婦人科医院  院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2024.07.05更新

先々週、先週と、今、急増している性行為感染症、梅毒についてお話してきました。未治療で放置すると神経、心臓、血管の症状が現れることがあること、初期には症状が出ないためごく普通の生活をしていても入ってくる感染症だと思わなくてはいけないということ、そして治療などにつきお話しました。

今日は梅毒シリーズの最後、妊娠中の梅毒感染症について。
梅毒の感染が急増していることはすでにお話しましたが、この傾向が実は10〜20代の女性に特に顕著であることが分かっています。つまり妊娠中のお母さんが実は梅毒に感染していたということが少なくないということです。妊娠中の感染症は赤ちゃんに移行する可能性もあるため注意が必要です。通常、お母さんが何らかの感染症にかかってしまってもその病原菌は胎盤によって阻止されるので、多くの場合感染が胎児に及ぶことはありません。しかし残念ながら梅毒の原因菌である梅毒トレポネーマは胎盤を通過してしまうのです。ですから母体が梅毒に感染していた場合、梅毒トレポネーマは胎盤を介して胎児に移行してしまいますので、胎児感染が起こる可能性があります。胎児に感染する可能性が高まる時期ですが、胎盤が完成するのは妊娠5ヶ月以降ですから、感染時期はほとんどの場合妊娠5ヶ月以降です。逆に胎盤が完成する前の妊娠4ヶ月より前の時期には感染が起こりにくいとされています。なので妊娠初期には妊婦さん全員に対して必ず血液検査で梅毒のスクリーニング検査を行います。赤ちゃんへの梅毒の感染は胎盤が完成する前の時期には起こりにくいので、感染が確認されても妊娠5ヶ月までに治療を開始すればいいわけです。
治療をしなかった場合には流産・死産のリスクが高まりますし、無事に出産に至ったとしても赤ちゃんに感染の症状が出ることがあります。赤ちゃんには発育不全、皮膚や骨の異常、知能や運動の異常などが起きる可能性があり、このような母児感染による梅毒感染を「先天梅毒」といいます。近年この先天梅毒の報告数も増えており、さらに梅毒に感染するとHIV感染症の発症リスクが上がるといわれていますので早めの検査・治療が大切です。。
治療はペニシリン系薬剤であるアモキシシリンを梅毒の第1期で2~4週間、第2期で4~8週間投与します。治療で使われる抗菌薬は、胎盤を通過して赤ちゃんに対しても作用することを期待して投与されるため、赤ちゃんに安全な薬が選択されます。
感染したママから生まれた赤ちゃんに梅毒があるかどうかを判断するには、身体診察を行って赤ちゃんに潰瘍や発疹がないかを調べます。赤ちゃんに潰瘍や発疹があれば、発疹部位より組織を採取したり、臍帯血や赤ちゃんの血液を検査し、梅毒の有無を確認して調べます。新生児・乳児・小児が感染している場合の治療は、ペニシリン系薬剤の静脈内または筋肉内注射をします。
なお、母乳による感染を心配するお母さんもいますが、母乳からは感染しません。

以上、三回にわたり急増している梅毒についてお話しました。あまりなじみのないお話であったかと思います。ご自身、大切な方、特に赤ちゃんを守るために、正確な情報を身に着け、適切な行動をお願いします。
根本産婦人科医院  院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

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