ドクターコラム

2024.08.30更新

本日は性器ヘルペスの再発について。

前回、性器ヘルペスはヘルペスというウイルスが原因であること、このウイルスには抗ウイルス薬があり速やかに使用することで重症化を防ぐことが出来ることをお話しました。そして抗ヘルペスウイルス薬はウイルスの増殖を抑制する薬剤ですからウイルスの数が少ない発症早期に使用すれば早く治ることが期待できるわけですが、残念なことにウイルスそのものを無くすウイルス薬は無く、軽快したとしても再発することがあることなどお話をしました。
いつ再発するかが分からないので、「一生ヘルペスに悩まされる」「違和感や痛みが心配」、「人にうつすかも」といったさまざまな悩みや不安を抱えながら日々を過ごされている方が多いです。こうした不安に加え困ったことは、再発の際は早期からHSVのウイルス量が増加するということです。つまり水疱が現れ、おかしいなと思った頃にはすでにウイルス量が増大しておりピークを迎えている可能性さえあります。くりかえしますが、抗ヘルペスウイルス薬はウイルスの増殖を抑制する薬剤であり、ウイルスをなくすお薬ではありませんので、治療開始時のウイルス量が出来るだけ少ない方が軽症で済むわけです。ですからおかしいと思った時にはなるべく早く受診していただき、ウイルスが少ない内に治療をお受けいただきたいのですが、そもそもすぐに病院に行けない場合もあるでしょう。
そのような方のために、あらかじめ処方し患者さんが再発の初期症状を感じたタイミングでご自分で服用開始するPIT(Patient Initiated Therapy)という服用方法が可能となりました。この方法で抗ウイルス薬を常に携帯して頂き、治療開始のタイミングを逃さないようにすることが可能です。PITはこれまでの受診タイミングより2~3日早く治療を開始することができ、ウイルス増殖のピークまでに治療を開始する理想的な治療と考えられます。
PITとしての抗ヘルペスウイルス薬の一つにアメナリーフがあります。アメナリーフはあらかじめ処方された薬剤をピリピリ、チクチクといった初期症状が現れたときに患者さんの判断で内服を開始する治療法です。

アメナリーフを処方する際は、はじめに再発性のヘルペスであることを臨床症状および病歴に基づき確認します。そして、ムズムズ等の再発の初期症状を判断可能な患者さんであることを問診等で確認し処方します。なおアメナリーフのPITでは年間再発回数に関する制限はありません。さらにアメナリーフには専用ケースがあり、専用ケースを開けば使用期限や服薬時の留意事項が一目で確認できる仕様になっており、安心して服用していただけると思います。当院でも処方しますので、ご相談下さい。
根本産婦人科医院  院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2024.08.23更新

本日は性器ヘルペスについて。

性器ヘルペスは、単純ヘルペスウイルス(HSV)の感染によって、性器に浅い潰瘍または水疱を生じさせる疾患です。痛みやかゆみを伴うこともあり、時には排尿痛など重症化することもあります。このウイルスには抗ウイルス薬があるので、症状を緩和することは出来ることが多いのですが、困ったことに再発を繰り返すことが特徴です。HSVは初感染後、一時的に治ったと思ってもいなくなったわけではなく、神経節(神経と神経の接合部)に引っ込んだだけで持続的に潜伏し続けます。通常は自身の抵抗力、免疫の力などで、HSVが神経節から出てこないように抑えているのですが、疲れやストレスなどで免疫が低下したりすると、それが引き金となって再活性化しこの神経節より表面に出てきて再発病変を生じます。このようにHSVは一度感染すると体内からいなくなることはなく、生涯に渡り付き合っていく必要がある疾患です。
発症したら出来るだけ速やかに抗ウイルス薬を内服、塗布して頂くことが重要です。まずは抗ウイルス薬を5日間内服して頂きます。「出来るだけ速やかに」という意味は、抗ヘルペスウイルス薬はウイルスの増殖を抑制する薬剤ですので、ウイルスが増える前にできるだけ早期に治療を開始することが重要だということです。ですからおかしいと思った時にはなるべく早く受診していただき、ウイルスが少ない内に治療をお受けいただきたいのです。

病院にすぐには行けないということもありえます。「すぐに治療すれば重症化せずに済むことが十分に期待できるのに」ということで、次回は再発性器ヘルペスに対し事前に処方しておき、患者さんのご自分の判断で内服頂く新しい性器ヘルペスの薬の紹介をしましょう。
根本産婦人科医院  院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2024.08.09更新

前回このコラムで、
・RS ウイルス感染症は2 歳までにほぼ100%が感染する。つまりこのウイルスから逃れられる人はまずいない。
・多くの場合軽症で済むが、症状が出てしまっても治療薬は無く重症化するとコロナの数倍厄介である。
・ハイリスク児に対してのみ予防的に接種するワクチンはあるが、健常児に使えるワクチンは無いにも関わらずRSウイルス感染症で入院になる80%が健常児である。
というお話をしました。

そこで今回は、お子さんのために妊娠中のお母さんに投与するRSワクチンについて。
本年1 ⽉に「妊婦への能動免疫による新⽣児及び乳児におけるRS ウイルスを原因とする下気道疾患の予防」の適応で、組換えRS ウイルスワクチン(アプリスポ)が認可されました。妊娠24 週から36 週の妊婦さんに1 回0.5ml を筋⾁内接種することで母体の免疫を活性化させ、胎盤を介して赤ちゃんに中和抗体を伝えることにより、新生児および乳児におけるRSウイルス感染症を予防するということです。
妊娠中にワクチンを打つなんて、と心配されるのもごもっともです。
そこで妊娠前のお母さんにワクチンを接種するのはどうでしょう。この方法はお母さんの抗体価を上げお母さんの免疫を高めることは出来ます。しかし残念ながら抗体量は時間と共に減少してしまいます。問題なのは、RS感染症が重症化するのが生後1年未満、特に半年未満が多いので、この時期にお子さんに多くの抗体があることが望ましいわけですが、いつ妊娠が成立し出産となりお子さんがこの時期を迎えるかが分からないということです。妊娠前にせっかくワクチンを接種しても、妊娠後お母さんの血中にどのくらいの抗体量が確保されているかが分からないので、胎児に十分な量の抗体を送ることが出来るという保証はないということです。またこのRS感染症、以前は秋から冬の流行と言われていましたが、コロナ後は流行時期が無くなり、つまり1年中用心しなければならないウイルスになりましたので、接種に適した時期もないと考えられています。従いまして妊娠前の投与はあまり効果が期待できないので適応になっていません。
では出産後にお母さんに接種し、母乳を介して抗体を赤ちゃんに送るのは?という方法ももちろん検討されましたが、残念ながら有効性・確実性は確認されませんでした。
そこで妊娠中に接種するのが望ましいということになります。
安全性についてですが、早産、死産、低出生体重児、妊娠高血圧症候群等、接種しない場合に比べても有意な差はないことが分かりました。もちろん注射を打つことによるお母さんの疼痛等のデメリットはあることがありますが、これは一般的なワクチンと同じ範囲です。ちなみに現在リスクのあるお子さんにだけ投与しているワクチン(シナジス)の予防効果に比べると、この妊婦ワクチンは数倍高い濃度でお子さんの抗体価が上がることも分かりました。

ということで、当院でもこのワクチンを接種する体制は整えました。ただまだ公費負担には至っていないので、申し訳ないことに経費が35000円前後になると思われます。皆さんにお渡しするパンフレットも用意していますし、ちなみに、お子さんがICUに入院すると、平均的な入院日数の試算で、この間の医療費負担・親が働けないことによる経済的な損失等、実質的な経済負担が約13万円になるという試算も出ていますので、参考にして検討いただければと思います。 
※根本産婦人科は8/11-8/15休診となります。もちろん、この間も医師、助産師、看護師は24時間常駐してますので、特に妊婦さんは何か心配なことがあったら遠慮しないで電話下さい。
このコラムも次回はお休みです。
根本産婦人科医院  院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2024.08.02更新

5/31のコラムでRSウイルス感染症についてお話しました。読んでくださった方々からご質問を頂きましたので、5/31のコラムも参照して頂きながら、今日は再びRSウイルスについて。

まず「RS ウイルス感染症は、主に新生児~小児がかかる感染症で、⽣後 1 歳までに 50%以上が、2 歳までにほぼ 100%が初感染します。」と述べました。100%ということは、このRSウイルスにかからない人、つまりこのウイルスから逃れられる人はまずいないということです。子どもはこれらのウイルスに暴露しながら発達していきますし、特にこのRSウイルス感染症はほとんどの子が軽症ですみますが、重症化すると厄介です。ある施設からは、RSウイルス感染症の入院患者数はコロナの6.5倍、ICU入院となってしまった呼吸器感染症の50%がRSウイルス感染症であるという報告もあったそうです。小児科医の友人はRSウイルス感染症が一番やっかいという印象だと言っていました。
「その後の気管支喘息との関係性も指摘されています」とも述べました。ちょうど生後半年くらいでお母さんからの免疫が少なくなり、かといって自分の免疫も未だ十分ではない時期にウイルスに感染すると、分泌物やウイルスの残骸が肺の下気道といわれる末端に溜まります。この下気道は空気の通り道の末端で大変に狭くなっています。成人でしたら狭いとっても容易に閉塞することは無く感冒症状程度で収まることが多いですが、新生児の時はまだとても狭いので狭窄してしまうわけです。この下気道の炎症による呼吸器症状を細気管支炎といいますが、乳幼児の細気管支炎の80%の原因菌がRSウイルスです。狭い時期につまってしまった気道が成長しても広がらず、息が吸えない、吐けない、つまり喘息になってしまうことは容易に想像がつくことでしょう。
そこで、「問題なのはRSウイルスに感染し、症状が出てしまっても有効な治療薬は無いということです。ですから予防が重要になります」、「児に予防的に接種するワクチン(シナジス)が知られています」というお話もしました。ですがこのシナジスは、早産児や先天性⼼疾患など基礎疾患のあるハイリスク児に対してのみ保険適応があり、いわゆる正期産で⽣まれた基礎疾患のないお子さんには使うことが出来ません。しかしRSウイルス感染症で入院になるのは80%が健常児であるとの報告もあり、まさに健常児に対するRSウイルス感染症対策が求められてきたわけです。

そのため、妊娠中のお母さんに接種して母体の免疫を活性化させ、胎盤を介して赤ちゃんに中和抗体を伝えることで、新生児および乳児におけるRSウイルス感染症を予防する役割を果たすワクチンが開発されました。次回はこのワクチンについてもう少し。
根本産婦人科医院  院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

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