80歳までに約3人に1人が帯状疱疹を発症
そのうちの約2割が重症化し「帯状疱疹後神経痛」で悩まされる
子どもの頃によくかかる病気の一つが水ぼうそう(水痘)です。子どもの時にこの水痘・帯状疱疹ウイルスに感染した人は、この時にこのウイルスに対する免疫を獲得するのですが、この獲得した免疫は年齢とともに少なくなってしまいます。さらに残念なことには、そのときのウイルスは死んでいなくなったのではなく長い間身体の中の神経節に潜り込んで隠れているので、一度、帯状疱疹になった人でも、体の免疫力が低下すると抑えられなくなりウイルスが再活性化し、再び発症する可能性があります。これが「帯状疱疹」です。
本日はこの帯状疱疹の発症を予防するワクチンについてお話します。
帯状疱疹が発症すると、身体のどちらか半分の神経の通っている部分に、帯のように皮疹が生じることから「帯」状疱疹と呼ばれます。はじめはピリピリチクチクした痛みから始まり、しばらくするとその部分が赤くなり、やがて水ぶくれになって神経痛のような激しい痛みをともないます。いちばん多いのは肋間神経のある胸から背中にかけてです。顔面にある三叉神経に沿って現れる場合は、失明や顔面神経麻痺をともなうこともあるので特に注意が必要です。この他、下腹部、腕、足、おしりの下などにも現れます。
痛みが始まってから水ぶくれが治るまでの間は、通常約3週間~1ヵ月です。水ぶくれが治った後も長期間にわたってしつこく痛むことがあります。これは神経が損傷されることで、皮膚の症状が治った後も痛みが残り「帯状疱疹後神経痛(PHN)」と呼ばれ高齢者に多いものです。PHNは、「焼けるような」「締め付けるような」持続性の痛みや、「ズキンズキンとする」痛みが特徴です。治療に半年~1年以上かかることもあります。日本で毎年60万人がかかる決して珍しい疾患ではありません。
このように帯状疱疹は加齢、病気、疲労、ストレスなどで身体の抵抗力が落ち、おとなしかったウイルスが再び活動し始めることで起こります。日本人成人の90%以上はこのウイルスが体内に潜伏していて、50歳代から発症率が高くなり、80歳までに約3人に1人が帯状疱疹を発症するといわれています。そして50歳以上で帯状疱疹を発症した人のうち、なんと約2割がPHNになり、長期間、疼痛に悩まされることが分かっています。
また米国の調査ではありますが、 50歳以上で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と診断された人は、診断されなかった人と比較して、帯状疱疹の発症リスクが高い可能性があることが示唆された報告もあります。
そこで、発症や重症化を予防するために開発されたのが「帯状疱疹ワクチン」です。帯状疱疹ワクチンを発症前に接種しておくことで免疫の強化を図り、帯状疱疹にかかりにくくするほか、仮に帯状疱疹にかかったとしても重症化を予防でき、「帯状疱疹後神経痛」になりにくくする効果もあります。
「帯状疱疹ワクチン」は、現時点では帯状疱疹になりやすい50歳以上から接種することが可能です。
このワクチンには、不活化ワクチンの「シングリックス」と、生ワクチンである「弱毒生水痘ワクチン」の2種類がありますが、当院ではGSK製の帯状疱疹ワクチン「シングリックス®」を採用しました。
その理由は、
①シングリックス®の帯状疱疹発症予防効果は非常に高い
:発症予防効果が50歳以上で97%、70歳以上で91%(「弱毒生水痘ワクチン」は60才以上で51.3%)
②帯状疱疹後神経痛の予防効果も非常に高い
:70歳以上での神経痛予防効果は85.5%(「弱毒生水痘ワクチン」は60才以上で66.5%)
③シングリックス®は帯状疱疹を長期に予防する
:50歳以上の成人の試験では、少なくとも10年間は80%を超える有効性が確認(「弱毒生水痘ワクチン」は8年目に31.3%)
良いことばかりではなく、シングリックス®は1回22000円~25000円で接種されていることが多く、2か月あけて2回の接種が必要。そのため、十分な免疫を作るのに4~5万円の費用がかかります(「弱毒生水痘ワクチン」は1回のみで8000円くらい)。ただし、東京都内では自治体からの助成(港区では1回あたりシングリックス®15000円※生活保護受給者等1回当たり2万2000円)が出始めていて、市川市周辺でも追随してくれることを期待しています。
また、シングリックス®は弱毒生水痘ワクチンよりも注射部位の腫れや赤み、発熱や頭痛などの頻度が多くなっています。
以上、帯状疱疹ワクチンについてお話させて頂きました。決して少ない病気ではなく、予防ワクチンが出来たことは大変に喜ばしいことと思います。一度発症してしまいますと長い間痛みに苦しむ方々を多く診てきましたので、地域の方々にはなるべく多くの方に接種させて頂きたく、当院では1回20000円で接種させて頂くことにしました。是非検討してみて下さい。