ドクターコラム

2024.01.26更新

ここ数回にわたり月経困難症について触れてきました。特に前回は子宮内膜症による月経困難症につき、将来的な妊孕性(妊娠できる力)確保のためにも早期の診断・治療が必要と述べました。この子宮内膜症による月経困難症治療を、早期(思春期でも)から始めることの重要性を理解して頂きたいというのが、実はこの月経困難症のシリーズを始めた最大の動機です。

もちろんこの思春期の時期は月経そのものがまだ安定していません。体と心が急激に変化していく時期でもあります。生理痛の現れ方も様々ですし、生理痛だけでなく、腰痛、むくみ、ニキビ、食欲不振、下痢、吐き気など、この時期には体の変化が突然かつ次々と起こってきます。こうした体の変化に加え、体の変化に気持ちがついて行けず学業や部活動、友人関係などに影響を与える、ということは調査結果から明らかになっています。また、こうした変化に対する戸惑いをほとんどの方が誰にも相談できず我慢してしまい、さらに悪化させてしまっているということも分かっているため、様々な不安を軽減するためにもまずは受診していただき診断をつけることが大切です。産婦人科の受診についてはハードルがとても高いことは容易に理解できますが、前回も触れましたが内診等苦痛を伴う診察は行いませんので、まずは親御さんに連れてきて頂くことでそのハードルを取っ払えればと思っています。またこの時期から産婦人科医師をかかりつけ医として持っておくことは、将来的な健康において非常に大切です。お子さんが安心して受診できるよう親御さんのサポートをお願いいたします。これまで周期的に来ていた生理が来なくなった、生理痛・強い吐き気や頭痛などで生理中は学校を休みがちになったなどの場合は受診させてください。
治療は鎮痛剤、鍼灸、漢方薬、サプリメントなど含め、患者さんに合わせてあらゆる角度から様々に行っています。ただ子宮内膜症が疑われた場合は、現在困っている生理痛だけではなく、将来的に起こってくる可能性のある様々な不都合に対処しておく意味でも、やはり低用量ピルが良いでしょう。また生理不順は鎮痛剤では改善できないため、この場合も低用量ピルの適応となります。
ピルの基本的なお話につきましては、以前のこのコラムで触れておきましたので参考にしていただくとして、そもそも「こんなに小さい子にピル?!」というご心配もごもっともです。結論から申しますと、使用しても問題なく体への影響は心配ありません。思春期の生理痛・生理不順には、低用量ピルが「初経後3カ月が経過すれば安全に使用できる」というのがWHO(世界保健機構)はじめ各学会等の見解です。とはいえ、ご心配は尽きないと存じますので、次回は思春期の女の子の低用量ピル服用に対して皆さんが不安に思っておられるであろうことについてお話します。

まだ生理が始まったばかりの思春期の方にとって、生理中の不都合はただ痛いなどだけではなく大きな不安を伴うものでもあるのです。繰り返しますがお子さんが早いうちから産婦人科にかかることが出来るよう、親御さんはじめお子さんが信頼できる大人にサポートして頂けることを願っています。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2024.01.19更新

厳しい寒さが続きます。
被災地の方の健康を祈らずにはおられません。

前回子宮内膜症のあらかたの成り立ちなどについてお話しました。痛みだけではなく、将来を見据えた対応が必要ですと。
今回は思春期の月経困難症についてです。
子宮内膜症は20代後半から発症することが多いと言われていますが、前回述べましたとおり、これは痛み止めが効かなくなって初めて受診して診断される方が多いためかもしれません。しかし鎮痛剤は痛みを軽減するだけで内膜症の原因を治療するものではありませんので、痛み止めが効いている間にも内膜症は進行しお腹の中の癒着が形成されていってしまうかもしれないことも前回お話しました。ですから20代後半まで生理中の痛みを鎮痛薬だけで対処していると、気づかないうちに子宮内膜症が進行しお腹の中の癒着が進んでしまう可能性があるということです。この癒着が卵巣まで及びますと月経痛だけではなく排卵痛が強くなってきます。また卵管にまで及びますと卵管狭窄、卵管閉塞などを引き起こしてしまいます。卵管がつまれば排卵された卵胞を取り込めませんから、将来不妊につながる可能性も指摘されています。つまり将来妊娠できる力をキープするためにも早めに適切な対応することが必要だということです。ましてや近年の傾向として、出産する年齢が高くなってきています。30歳代になるまでに妊娠をしない方も多いです。妊娠を望んだ時に妊娠できる力をキープするということを考えて、症状がある場合は早いうちから速やかに治療を開始することが大切です。早いうちというのは10代、場合によっては小学生も含みます。月経痛が毎月しんどい、だんだんと辛くなったきた、痛み止めが効きづらくなってきた、効かなくなってきた、またそれに伴って登校が遅れる、休みがちになるなどして授業に支障が出てきたなどが受診のタイミングかと。もちろん思春期の患者さんに内診等行うことはありませんので安心して受診して頂き診断を受けてください。

治療は低用量経口避妊薬(LEP)を中心としたホルモン療法が良いでしょう。低用量経口避妊薬を使うことで子宮内膜症の進行を抑え将来妊娠しやすい体を保つことができるからです。結論から言いますと思春期の女性への低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP製剤)投与には問題はありませんが、ご心配も最もですので、次回はその辺にについて少し詳しくお話しましょう。当院では数多くの小中学生や高校生が低用量ピルで生理痛から解放され喜んで頂いています。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2024.01.12更新

本日は子宮内膜症について。
子宮内膜症の「子宮内膜」とは子宮の真ん中にある膜です。膜というくらいですから元々はとても薄いのですが、月経周期に伴ってだんだんと厚くフカフカになります。厚くなるのは受精卵を着床させやすくするためで、もし受精卵が来なければ厚くなった内膜は剥がされ元の薄い膜に戻ります。この厚くなっていた分の内膜が排出される現象が月経です。子宮内膜を含む血液が子宮口から出るのが月経血ですが、一部お腹の中に出てしまうことがあります。どうしてお腹の中に出てしまうかは未だ全て明らかにはなっていませんが、卵管から逆流してしまうことなどが考えられています。お腹の中に出てしまうと子宮壁、卵巣、卵管、腹膜、その他の臓器にくっついて増殖し、腹腔内の癒着、炎症を引き起こし痛みの原因となります。これが子宮内膜症です。手術でお腹の中を見てみると、むしろ子宮内膜がお腹の中に全く見られない方のほうが稀で、全ての女性は子宮内膜症ではないかと思うほどです。では子宮内膜症としての症状が全くない方と強く出る方がいるのは何故でしょう。通常、お腹の中にあるべきではない組織がお腹の中に出現すると免疫の力が排除してくれるはずですから、そういった免疫の差が関係しているのではないかという説もありますが、これもまだ良く分かってはいないのです。
子宮内膜症が発症する場所は様々です。横隔膜や腸管内、なんと肺から内膜症の組織が見つかったこともありますので本当に様々ですが、多いのはやはり子宮壁、卵巣、卵管です。ですから、やはり生理痛がひどくなり日常生活に支障が出てきたという段階で受診され、子宮内膜症ですね、と診断される方が圧倒的に多いわけです。患者さんにしてみれば、市販の痛み止めで何とかなってるから病院にかかるほどではないと考えるのは無理もありませんが、痛み止めは痛みを取っているだけで、上で述べた子宮内膜症の根本原因に対処しているわけではありません。つまり痛みが取れて治ったと思っている間にも内膜症が進行している可能性があるということです。以前にも述べましたが、厚生労働省の調査によると、月経困難症の患者数は推定800万人以上とされていますが治療を受けている人はその10%程度にすぎません。また海外のデータではありますが、機能性月経困難症と診断された患者さんの実に約70%が子宮内膜症を発症していることもわかっています。早めの受診が望まれます。

来週はこの続きを。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

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