ドクターコラム

2024.03.29更新

少し暖かくなってきましたね。季節の変わり目です。体調には十分気をつけて下さい。

今日は再び、子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)について。
HPVワクチンは小学校6年生から高校1年生相当の女子を対象とした定期接種のワクチンです。
ただ、ワクチンの積極的勧奨が無かった時期があり、この時期に接種を受けられなかった1997年度生まれ~2007年度生まれ(1997年4月2日生まれ~2008年4月1日生まれ)のキャッチアップ世代の方にも早く接種を受けて頂きたい思いから、2023/07/07のコラム、
「急報! 16才-26才のキャッチアップ世代の方 子宮頸がんワクチンを受けて下さい!!」
で触れましたので詳しくはそちらで。
当院にも、定期接種の方、キャッチアップ世代の方、多くの方に、このワクチンの接種にお越しいただくようになってきてはいます。また接種そのものは産婦人科以外の施設(内科・小児科など)でも可能ですので、いずれの施設でも構いませんから早く受けて頂きたいです。ただ産婦人科以外の診療科の先生方はもちろんご専門ではないので、他院で受けようと思ったけどもう少し詳しい説明をと当院にいらっしゃる方が少なくありません。ので、そういった方々から良く頂くご質問にお答えしておきたいと思います。
まずキャッチアップ世代の方への接種の仕組みの確認です。この世代の方への公費での接種は2025年4月まで、よって残された時間はあと一年となります。でも、まだ一年あると思わないで下さい。このワクチンは3回接種が基本です。3回接種の標準的なスケジュールでは完遂までに6カ月かかります。ので、接種を公費で完了するには「本年の9月までに一回目を終えないと間に合わない!」のです。ちなみに公費接種が終了しても自費でお受けいただくことはもちろん可能ですが、自費ですと10万円くらいかかってしまいますから、しつこくもう一度お知らせさせて頂いている次第です。
次にワクチンの種類です。現在公費で接種可能なHPVワクチンは2価、4価、9価の3種類があります。HPVというウイルスには非常にたくさんの種類があり番号が付けられています。このうち子宮頸がんに関与するウイルスは、高リスク型である16番、18番、31番、33番、45番、52番、58番の7種類が知られています。この7種類に低リスク型(尖圭コンジローマなどの原因となる)である6番、11番を加え9種類のウイルスをすべてカバーしようというのが9価ワクチンというわけです。より広いHPV型に対する予防が期待できるわけです。またワクチンの種類による副反応の出方には差が無いことが分かっています。ですから9価は2価より副反応が強いということもありません。このような理由から当院では9価ワクチンを推奨しています。
またこの副反応についても良くご質問頂きます。積極的な勧奨が再開しそろそろ1年になり被接種者総数は増加しておりますが、副反応疑いの報告の割合は変わらず、低いまま推移しています。ちなみに当院では疑いも含め1例もありません。

この子宮頸がんワクチン、まだまだ進んでいません。先進国では80%に及ぶ高い接種率を達成していますが、日本はまだ25%程度‼️です。7/7のコラムでもお願いし繰り返しになりますが、定期接種世代・キャッチアップ世代の方、娘さんをお持ちのお母さん、知り合いのいる方、ぜひ勧めてあげて下さい。もうすでに接種した方もお友達に勧めてあげて下さい。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2024.03.22更新

前回に引き続き、妊活前の準備、プレコンセプション(preconception)についてもう少し、特にウイルス感染症についてお話しましょう。

妊娠中にお母さんがかかると赤ちゃんに影響のある感染症として、まず風疹が知られていますね。風疹は風疹ウイルスによって引き起こされる感染症です。特徴的な発疹・発熱・リンパ節の腫大といった症状がありますが、3日程度で消えるため軽いはしかという意味合いで三日ばしかなどと呼ばれます。症状は軽いので罹患したことに気がつかないこともあるくらいですが、妊娠初期20週までにお母さんがかかると赤ちゃんに難聴や心奇形、白内障などの先天性風疹症候群が起こる場合があります。このため妊娠初期の検査で必ず調べますが、この初期の検査で風疹の抗体が少ないことが分かったところで、風疹ワクチンは生ワクチンですので妊娠中に使用することはできません。よって妊娠前に風疹の抗体価を調べ、少ない場合は妊娠する前にワクチンを接種し抗体を増やしておくことが大切になります。ワクチン接種後は2カ月は妊娠しないようにしてください。でも、もし妊娠していると知らずにワクチンを接種したとしても、それを理由に妊娠を中断する必要はないとされているので、「妊娠していると知らずにワクチンを接種してしまった」という人も、まずは医師にご相談ください。また同居の方も抗体を持っていることが重要ですので、家族で抗体検査を受け抗体が少ない場合はワクチン接種を受けておきましょう。抗体検査、ワクチン接種についてはご本人のみならず、パートナーの検査や接種の助成をしている自治体もありますのでご確認下さい(市川市はご本人とパートナーにも助成があるようです)。
https://www.city.ichikawa.lg.jp/pub10/1111000113.html

次にはしか(麻疹)です。このコラムにタイムリーにと言いますか、このところ流行してきて要注意です。麻疹というと子供の病気と思われがちですが、感染力が強いため大人も、とくに妊婦さんが感染すると流産や早産を引き起こすことがあるので注意が必要です。はしかは、麻疹ウイルスによって引き起こされる感染症です。麻疹を発症すると、まず38℃前後の発熱が2〜4日続き、同時に咳や鼻水、喉の痛み、結膜炎のような症状、頬の裏側あたりに小さな白い斑点(コプリック斑といいます)が現れます。熱はいったん下がりますが、半日程度後、今度は39℃以上に熱が上がります。さらに耳の後ろや首などに発疹が現れ、それが全身へと広がっていきます。このように風疹に比べ症状は激烈ですが、風疹などとは違い、麻疹が原因でお腹の赤ちゃんに先天的な病気や障害引き起こすことはほとんどありません。ただし妊娠中の女性が麻疹に感染すると、流早産、低出生体重児の可能性が高まるといわれていますので、妊娠や出産の際に注意すべき感染症といえます。また風疹と同じく妊娠中は麻疹ワクチンの接種ができませんので、妊娠前のチェック、接種が望まれます。

その他、様々あるので、全てを網羅するブライダルチェックを受けて頂くのもいいでしょう。
いずれにしましても、「妊娠してからケアしても遅いということが少なからずある」ことがお分かりいただければ幸いです。日本の周産期死亡率や新生児の合併症の低さは世界でもトップレベルにありますが、我々にはまだまだ出来ることがあると思っています。また全体の確率がいかにトップレベルでも、ご自身の身にあるいはお子さんの身に何か起きてしまえば、ということがあります。出来ることはすべてやっておくという意味でも、是非このプレコンセプションの重要さをご理解下さい。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2024.03.15更新

今日はプレコンセプション(preconception)について。
コンセプトとは概念・考えという意味が主ですが、そこに受胎という意味があるというのが面白いですね。ですからプレ・コンセプションとは受胎前、つまり「妊娠の準備をすること」という意味になります。女性やカップルが現在の生活や健康に向き合う中で将来の妊娠に備えるという、まさに概念です(笑)。
まず、これまでかかった病気がある方や現在飲んでいる薬がある方は、将来の妊娠に影響がないか妊娠したらどう管理していくかなど、妊娠前から主治医と良く相談して妊娠に備えて頂きます。そして妊娠してからも産科医が主治医と連携することで安全に妊娠を維持することに注力します。
その上で健康な方も含め、妊娠前から注意して頂きたいことがあります。
例えば赤ちゃんの体が形作られるときにお母さんの血糖が高いと、赤ちゃんに先天性の異常が生じる可能性が高まったり、早産、胎盤機能異常のリスクも高まります。ですので妊娠前に血糖値を調べ、高い場合は妊娠前から血糖を適正にコントロールしておくことが大切になります。
適切な体重管理も重要です。肥満体型の妊婦さんには早産、妊娠糖尿病、妊娠高血圧症候群、血栓のリスクが高まることが分かっています。妊娠前に減量し適切な体重にしておくことでこれらのリスクが軽減されます。また痩せすぎも問題です。妊娠前にお母さんが痩せすぎているほど赤ちゃんの出生体重が小さくなることが分かっているばかりではなく、小さく生まれた子は将来、糖尿病や高血圧といったメタボリックシンドロームになりやすいことも分かっています。
喫煙の弊害は言うまでもありませんが、妊娠中の喫煙は、受動喫煙含め、早産、低出生体重児、常位胎盤早期剥離の合併症を有意に増加させますが、妊娠中の禁煙成功率は20%と極めて低いので、「赤ちゃんできたらやめます」はほぼ不可能です。妊娠前からのご家族含めた禁煙が望まれます。
そして妊娠前から摂取して頂きたい栄養に葉酸があります。葉酸はDNA(細胞が分裂・増殖する時に必要)を合成するための重要な栄養素ですので、葉酸が不足すると赤ちゃんに神経管閉鎖障害などの先天異常が起きる可能性が高まります。妊娠前から葉酸を摂取することでそういった先天異常が有意に低下することが分かっています。葉酸は緑黄色野菜、豆類、果物、レバーなどに多く含まれる栄養素ですし、効率的に摂れるサプリメントもありますのでご相談下さい。

以上、本日はプレコンセプションについてお話しました。こわい話ばかりで申し訳ない限りですが、もう少しありますので次回触れたいと思います。当院では、男性用、女性用のプレコンセプション・チェックシートなども用意し、まずはご自身の妊娠、出産、子育ての経験の上に豊富な臨床経験を積んだ優秀な助産師、看護師がいつでも相談に乗れる体制を整えておりますので、一度ご相談にいらしていただくのもいいでしょう。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2024.03.08更新

今日は子宮頸がん検診のお話をします。
結果が届いても患者さんの中には理解しづらいとの師長のリクエストです。

子宮頸がんは、HPVワクチンのコラムでお話しましたが、日本ではまだ年間10000人がかかり3000人が亡くなっている癌です。子宮癌検診は子宮頸がん罹患率を減少させる膨大なかつ確実な証拠がある検査です。市町村によって多少の違いはあるみたいですが、基本的には20代以降の年齢の方に公費で行えるようになっています。市から案内が来たら、ワクチン接種後の方も含め必ず来院してください。

一般的に子宮頸がん検診は、問診、腟鏡診(子宮頸部の観察)と細胞診(子宮頸部の細胞をブラシなどで採取し顕微鏡で調べる)で行われます。当院ではご希望があった場合や医師が必要と判断した場合に、超音波検査を加え検査の確度を上げるようにしています。また症状のある方などには内診(子宮や卵巣の触診)を行い症状の部位を特定するという診察も行っています。子宮癌検診で子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮内膜症、卵巣嚢腫等々の他の病変が超音波検査で、見つかることもあります。また近年、別の検診方法として自分で採取する自己採取細胞診検査があるようですが、この方法は国立がん研究センターにて「精度が悪く受けるべきではない」とされています。必ず医師による検診を受けて下さい。
市の子宮頸がん検診の結果は当院検査後3-4週間後郵送で届き、「精密検査不要(異常なし)」と「要精密検査(異常あり)」のいずれかのみが記載されています。「精密検査不要(異常なし)」の方は、以後何もなければ次回の案内まで検査は不要です。「要精密検査(異常あり)」の場合は速やかに、必ず、精密検査を受けに来てください。要精密検査の方で、それががんである確率は約1%ですのであまり心配せず。ただ、がんでないにしても、それが将来がんになりかねない前がん病変であったりした場合、がんになる前に治療し、大事に至らないようにすることも出来るわけです。ですから、「がんだと言われたらどうしよう」とか、逆に「1%なら大丈夫だろう」などと先延ばしにせず、すみやかに精密検査を受けましょう。
来院頂きましたら、結果につきもちろん詳しくお話します。結果は、悪性と良性の区別がつかない「ASC-US」から扁平上皮がん「SCC」等までになります。結果次第で、例えば、「ASC-US」はがんへと進む前に異形が自然に消退するケースも少なくありませんが定期的に診ていきましょうね、とかお話します。精密検査はHPV検査、コルポスコピー検査(拡大鏡で子宮頸部を観察する検査)、生検(組織の一部を採取)などになります。

あまり受けたくない検査であることは十分に承知しています。きわめて短時間で済むように工夫しておりますし、苦痛やリスクはありませんので定期的に受けるようにしてください。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2024.03.01更新

思春期は、将来、妊娠・出産ができる体をつくる時期というだけではなく、一生を通した体作りに大切な時期です。女性ホルモン、エストロゲンには丸みを帯びた女性らしい身体作り、頭髪や皮膚に潤いを与える等、健康的な身体を作る役割があります。思春期に女性の顔や体がふっくらと丸みを帯びてくるのは、将来の妊娠・出産にそなえての準備であり、けっして肥満なわけではなく正常な変化です。この女性の身体にとって大変に大事な時期である思春期に、不適切なダイエットや食事が偏ったりしますと当然様々な支障が出てきます。

前回、急激な体重減少により生理が止まってしまうのは、ある意味、身体のシステムが引き起こす防御反応のようなものですというお話をしました。そのメカニズムの一つが女性ホルモンの減少です。女性ホルモン(主にエストロゲン)は、生理をうまく回したり、妊娠する条件を整えたりするだけではなく、骨形成およびコレステロールを分解する働きを持つことは以前このコラムで述べました。
骨形成については骨粗しょう症のところで触れました。骨も皮膚や髪と同じように新陳代謝を繰り返しています。古くなった骨は壊され、新しい骨が補われています。この古くなった骨を壊す細胞を破骨細胞といい、新しい骨をつくる細胞を骨芽細胞といいますが、この破骨細胞が骨を壊すスピードと、骨芽細胞が骨をつくるスピードの絶妙なバランスで骨量が安定し強さが保たれているのです。一方、エストロゲンには破骨細胞の働きを適度に抑制する働きがあります。つまりエストロゲンが少なくなると、骨を壊すスピードが抑制されず壊され過ぎてしまうため骨量が減ってスカスカになってしまうわけです。一方この思春期の時期は、生涯で唯一「骨密度が増える時期」です。そのため、この時期に極端なダイエットをして栄養素が不足した状態が続くと、骨密度が充分に増えることなく生涯を過ごすことになります。骨密度が低いまま高齢期にさしかかると骨粗しょう症になる可能性が高まります。
コレステロールについては更年期のところでお話させて頂きましたが、エストロゲンは肝臓での、特に悪玉コレステロールの代謝を促進する働きをしています。つまりエストロゲンが少なくなるということは、コレステロールが分解されず高コレステロール血症になりやすくなる、つまり将来高コレステロール血症による脳卒中、心筋梗塞等のリスクが高まるということです。

以上、思春期に急激なダイエットをしてほしくない主な理由を挙げさせて頂きました。生涯にわたる健康な体作りが必要な大事なこの時期は、精神的にも揺れ動く難しい時期でもありますね。親御さんとして対応ご苦労されることも多いかと存じます。以前も宣伝しましたが、当院には自身の子育て体験も含め、経験豊富で優秀な女性スタッフがたくさんおります。経験だけではなくものすごく良く勉強しています。最初から医師に相談はハードルが高いという方は、まずはスタッフがお話を聞きますので遠慮なくお越しください。

三寒四温、天候が不順になる時期です。お身体ご自愛ください。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

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