ドクターコラム

2024.04.26更新

前回は妊娠初期から注意して頂きたいこととして妊娠高血圧症候群についてお話ししましたが、
今回は切迫早産について。

切迫早産とは「早産が切迫する」、つまり「早産しそうな状態」ということです。
早産とは妊娠37週より前に赤ちゃんが生まれてしまうことで、全妊娠の約5%に発生する決して少なくない状態です。ちなみに日本では妊娠22週より前に生まれてしまいますと早産ではなく流産と言いますので、正確に言いますと日本では「妊娠22週0日から妊娠36週6日までの出産」を早産と呼びます。「日本では」と言いますのは、流産と早産の境目は一言で言うと「助けられるかどうか」なので、国による医療技術の差で「助けられる週数」が変わってくるということです。そのため妊娠28週以降でないと助けられないので28週を越えないと早産として扱わない国も多くありますから、日本の新生児医療のレベルはとてつもなく高いです。助けられるといっても、例えば妊娠22週で生まれた場合、赤ちゃんはまだ500 gくらいの体重しかありませんので新生児集中治療室(NICU)での治療が長期間必要となりますし、早く生まれた赤ちゃんほど後で重篤な障害を発症する可能性が高くなります。また妊娠34週以降の正期産に近い時期の早産であっても呼吸障害など長期に障害を残すことがあることが分かっています。ですから大切なことは、妊娠中まずは定期的な健診を必ず受けていただくとともに、健診と健診の間でも、いつもと違う症状があったらすぐに受診して頂き、切迫早産の状態になっていないかを診断し、必要ならば早産にならないよう治療を開始することです。
切迫早産になると子宮が収縮しお腹のはりや痛みが規則的かつ頻回におこります。このお腹の張りはモニターで評価します。この収縮で子宮の出口が開いてきてしまい赤ちゃんが出てきそうになったら大変ですから、子宮の出口の長さ子宮頸管長を超音波で測定します。当院では症状の有無に関わらず、しかるべき週数で子宮頸管長を必ずチェックしています。また破水が先に起こることもあります。破水とは胎児を包んでいる膜が破れて羊水が流出する状態のことをいいます。膜が破けた刺激で子宮が収縮し始めることがありますので、破水も切迫早産の前兆となります。おりものが少し水っぽいなというのが実は破水であったなどということも日常茶飯事なので、自己判断せず必ず受診して下さい。
治療はまずは安静など日常生活の改善です。それでも改善しない場合は、子宮収縮を抑える目的で子宮収縮抑制薬を内服していただき子宮口が開かないようにします。また切迫早産の原因の一つでもある細菌による感染が疑われれば抗菌薬を使用することもあります。こうしたさまざまな治療でも改善しなければ入院していただき子宮収縮抑制薬の点滴治療を考慮します。
まれにお腹の張りの自覚なく、気がつかない内に子宮口が開いてしまう方がいて子宮頸管無力症といいます。この場合、子宮口を縛って開かないようにする手術、子宮頸管縫縮術を行うことがありますが、その効果はまだ明らかではありません。当院では症状の有無に関わらず、しかるべき週数で子宮頸管長を必ずチェックしていますので安心して下さい。
また、上のお子さんの妊娠時に早産になったことのある方はより早産になりやすいとされていますし、子宮頸癌や異形成のために円錐切除術という子宮頸部を切り取る手術を受けた方なども早産になりやすいといわれています。

切迫早産や早産の予防のためには、日頃から無理のない生活を心がけることが最も大切です。また妊婦健診をきちんと受けかかりつけの医師の指示によく従ってください。
次回、5/3はGW中なのでこのコラムはお休みです。
根本産婦人科医院  院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2024.04.19更新

今日は妊娠高血圧症候群についてお話したいと思います。

妊娠高血圧症候群は、このコラムでも何回か触れましたが、特に妊娠中期以降、妊娠前も含めそれまで何も問題なかった方が、突然血圧が上がるなどし母体や胎児にさまざまな症状を引き起こす疾患です。我々産科医が妊娠の管理をする際、最も注意している疾患の一つです。この妊娠高血圧症候群、かつては「妊娠中毒症」と呼ばれていました。大昔からあった疾患のようで、お腹の大きい妊婦さんが突然具合が悪くなるのを見て、昔の人は赤ちゃんから毒が出てこのようになる、つまり「中毒」と考えたのかもしれません。もちろん胎児から出る毒が特定されたことは無く、現在ではこれらの症状を引き起こす原因として血管内皮の障害による血管の異常収縮と血小板減少による血液凝固異常が関連していることが明らかとなってはいます。ですが、なぜこのような血管、血液の変化が引き起こされるかは未だ不明です。いずれにしても原因は胎児ではなく、母体の高血圧が主体であるので、名称が正しく「妊娠高血圧症候群」となりました。
妊娠高血圧症候群は初期には比較的自覚症状が少ないとされています。ただ進行し血圧が上がれば頭痛や目がチカチカする、手がしびれるといった症状を生じることがあります。これは子癇(しかん)と呼ばれるけいれん発作の前兆であることもあり、子癇が治まらない場合は意識障害や脳出血を引き起こすなど、母子ともの命におよぶ危険につながることも少なくありません。また腹痛(胃痛)や吐き気・嘔吐が起こり、それが妊娠高血圧症候群の重症型であるHELLP症候群の前兆であることがあります。HELLP症候群は血液中の血小板減少に伴う肝臓機能の障害によって引き起こるとされています。ですから子宮というよりは子宮よりも上の肝臓が痛むので、しばしば「胃が痛い」などという表現となります。この症状がHELLP症候群の現れであると急激に進行しますので、いずれにしても頭痛、腹痛などの症状がある際は早めに受診をすることが大切です。
血圧の目安としては収縮期血圧が140mmHg以上あるいは拡張期血圧が90mmHg以上になった場合高血圧が発症したといいます。収縮期血圧が160 mmHg以上あるいは拡張期血圧が110 mmHg以上になってしまったら重症です。その他、尿中に蛋白が出ていないかなども含め診断します。妊娠高血圧症候群と診断されたら、軽症であれば医師より自宅療養の指導があり定期的な診察を行うなどの経過観察となります。しかし突然重症化することもあるため、軽症であったとしても医師の判断により入院となる場合もあります。
重症の妊娠高血圧症候群の場合、けいれん予防や高血圧改善の薬を使うこともありますが、様々な治療に反応せず母子ともにリスクが高いと判断された場合は、分娩誘発や帝王切開で妊娠継続を終了させる必要が生じることもしばしばです。

妊娠高血圧症候群は妊婦さんの約20人に1人に起こるけっして少なくない病気です。しかし、繰り返しますが、詳細な原因は未だに解明されていませんので、予防する方法も確立されてはいません。そのため妊娠初期から出来ることは、高血圧にならないための生活を心がけて頂くことです。健やかな妊娠・出産のためにも、妊娠前よりもいっそう健康に留意し、適度な運動、栄養バランスの良い食生活を送りましょう。具体的な相談は遠慮なく。アドバイスはいくらでもします。そして何かあったら、いつでも躊躇せずご連絡下さい。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2024.04.12更新

このコラムを書いております4月9日は「子宮(49)の日」です。あまりご存じない方が多いと思いますが、記念日登録されているれっきとした記念日だそうです。この日を中心に日本全国で子宮がん予防・啓発キャンペーンが行われますが、まだまだ皆さんの耳に届く感じではなかったのではないでしょうか?この「子宮の日」は「子宮頸がんを予防する日」という意味合いが強いのですが、子宮頚がんについてはこのコラムで何回も触れてきましたので、今日はあえて、もう一つの子宮がんである「子宮体がん」についてお話ししましょう。
子宮体がんは子宮の奥、内膜部分に発生するがんで、子宮頸部(手前)に発生する子宮頸がんとは異なります。子宮体がんのほとんどは子宮内膜から発生するため、一般的に「子宮体がん」のことは子宮内膜がんともいわれます。
子宮体がんは国が定めるがん検診の対象にはなっていません(50歳以上は、市のがん検診に追加できます)ので、子宮体がんを早期発見するために普段から気をつけたい症状や、リスク因子を知っておくことが大切です。
初期からの症状としては、不正出血です。子宮体癌の9割の方に認めます。不正出血は、月経不順、ストレスなどでも起こりますが、色とか量とか関わりなく、生理ではない出血があったら不正出血として必ず婦人科を受診しましょう。閉経後も同様です。進行すると下腹部痛、性交痛、腰痛、下肢のむくみなどの症状が現れることもあります
次に原因ですが、子宮内膜を増殖させる働きがある女性ホルモン、エストロゲンの関与が分かっています。エストロゲンの働きが過剰になると子宮内膜が増殖しすぎて、子宮内膜にがんが発生しやすくなるというわけです。ですから、まず、妊娠・出産経験がない方はリスクが高くなります。妊娠・授乳中は一定期間エストロゲンの働きが抑えられますのでエストロゲンへの暴露が無い時期を設けることが出来るわけですが、妊娠・出産の経験がないとエストロゲンにさらされる状態に休みがないということになり、子宮体がんのリスクが高くなるわけです。同じ理由で30歳以上で月経不順がある方もハイリスクです。閉経までエストロゲンの分泌はあまり変わりませんが、月経不順があると年齢と共に子宮内膜の増殖を抑えるプロゲステロンの分泌が低下します。その結果、月経不順が長期間ある場合は、エストロゲンが相対的に多くなり子宮体がんのリスクが高くなります。また肥満もリスク因子です。エストロゲンは、卵巣以外に体の脂肪組織でもつくられているため、肥満があるとエストロゲンの分泌が過剰になります。BMIが27を超えると子宮体がんのリスクは2倍近くになることがわかっています。
また子宮体がんの2-5%程度は遺伝性のものとされます(Lynch リンチ症候群といわれます)。血縁者に50歳未満で子宮体がん、大腸がん、胃がん、泌尿器系のがんなどを発症した人がいる場合は、子宮体がんになる可能性がやや高いと考えられるため注意が必要です。

子宮体がんの好発年齢は、子宮頸がんに比べてやや高齢で50~60歳代とされています。しかし、昨今の女性を取り巻く社会状況の変化、 未妊、肥満などの要因に加え、遺伝の関与も明らかとなり、比較的若い年齢で子宮体がんを発症するケースも少なくなくなってきました。月経ではない出血があった場合は必ず子宮癌検診を受けて下さい。
根本産婦人科医院 院長  根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2024.04.05更新

新年度が始まりました。新しい生活・環境を希望に満ちてスタートされている方も多いと思います。

今日はこのところお問い合わせが多い人工妊娠中絶薬(経口中絶薬)について。
2023年4月、いわゆる経口中絶薬「メフィーゴパック」が承認され1年になりました。薬で中絶出来るということは、「病院に行かなくてもいい」「手術しなくていい」「親にバレない」等々、良いことばかりでお気軽に中絶できるとお考えになる方がいらっしゃるようです。もちろんこれまではほぼ手術という選択肢しかなかったので、選択肢が増えるという点では喜ばしいことであることは間違いありません。手術はいずれの方法でも子宮内に器具を入れるために、子宮の内壁を傷つける等リスクがあります。当院では安全な吸引法を採用していますのでまず心配はありませんが、経口中絶薬は子宮に器具を入れることがないので、子宮にも精神的にも負担が少ない中絶法と考えられています。
経口中絶薬「メフィーゴパック」は2種類の薬がパックになっておりそれらを順番に服用します。ます初めに「ミフェプリストン」を内服します。「ミフェプリストンは」妊娠を継続するホルモン(黄体ホルモン)の働きを抑えます。ミフェプリストン内服後36時間から48時間後に第2薬の「ミソプロストール」を服用します。「ミソプロストール」は、子宮を収縮させ内容物を排出させます。この薬は収縮が強くなりすぎることがあるため、ゆっくり吸収させる必要があるため、すぐにのみ込まず左右の奥歯の頬と歯茎の間に入れて30分間かけて口の中で溶かします。
中絶薬は、人工妊娠中絶手術に比べて負担が少なく、入手方法も比較的簡単に見えるため、使用したいと思われる方が多いかもしれませんが、注意も必要です。
まず経口中絶薬の失敗率はおよそ8%で、人工妊娠中絶手術よりも高率です。その上で子宮内の妊娠であることが必須です。妊娠反応陽性だけで使用し子宮外妊娠だった場合、卵管破裂等を引き起こすと命に関わります。ですから必ず医療機関を受診し超音波で子宮内の妊娠であることを確認することが重要です。「病院に行かなくてもいい」は間違いです。また中絶薬は大量出血といったリスクもあります。自己判断で中絶薬を服用し大量出血を来し救急搬送されたとしても適切な処置をスムーズに受けられない可能性もあります。
そのため、現状では経口中絶薬を処方するには2つの条件があります。「母体保護法指定医」であることと、「入院可能な医療機関」であることです。母体保護法指定医とは産婦人科専門医の中から母体保護法に基づいて指定される医師です。また出血などの症状に対応するため、中絶が確認されるまでは院内で待機することが必要とされています。当院はすべての医師が母体保護法指定医であり入院施設も完備していますのでこの中絶薬を処方することは可能なのですが、現状、申し訳ありませんが当院では取り扱いをしておりません。それには様々理由があるのですがそれはまたの機会に。

手軽に使用できると思われがちな中絶薬ですが、このように様々注意が必要です。妊娠したかもしれないと思ったらまずは婦人科を受診しましょう。メフィーゴパックは登録された指定医師の管理の下で使用できる薬剤であり、薬局やインターネットでの購入はできません。しかし海外の経口中絶薬の使用が認められている国ではインターネット上で販売していることもあるようで、こうしたサイトより個人で輸入、使用し、大量出血を来し危険な状況に陥った症例もありました。くれぐれも個人輸入等イレギュラーな方法で入手することなく、くりかえしますが妊娠したかもしれないと思ったらまずは婦人科を受診、相談にいらしてください。
根本産婦人科医院 院長  根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

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