ドクターコラム

2024.06.21更新

こんにちわ
みなさんは梅毒(ばいどく)という感染症を聞いたことがあるでしょうか?ご存じの方も、梅毒というと昔の病気のイメージがあるかもしれません。しかし実はこのところ過去に例がないほど爆発的な勢いで増えています。梅毒は主に「性行為」で感染しますが、コロナ禍後、マッチングアプリ、SNSの影響で奔放な性活動が活発になったことが原因であることが分かっています。
経過の中で皮膚に赤〜ピンク色の湿疹が出現し、この発疹が楊梅(ヤマモモ)の実に似ていることから梅毒と呼ばれています。発症部位は口やのど、陰部などが多いですが、無症状、そして症状が見えにくい場合もあります。
具体的には性器同士の接触、口や肛門の接触、それからキスによってうつることもあります。梅毒は感染から2〜6週間の潜伏期間を経て発症。最初に侵入した箇所で増殖したのち、リンパ節や血流を介して全身に広がります。梅毒の感染経過は第1期〜第4期に分けられています。初感染から3ヶ月以内の時期を第1期といいます。この時期の多くは無症状なので気がつきません。第2期は感染後3ヶ月から3年の期間をいいます。この時期に出る皮疹が赤〜ピンク色の湿疹ですが、出現部位が性器などなかなか自分の目にはつかないところのこともあり、また痛みもありませんので、それを性感染症の症状と自覚せず放置してしまうことも多いです。放置してしまうとさらに進行し、さらに性感染症が広がる1つの理由になっていると考えられています。梅毒は初期感染の段階で治療を行うと完治できる病気ですが、進行すれば様々な症状がでます。そして第3期、4期など末期ともなれば神経症状、心臓や血管の症状が現れることがあります。
繰り返しますが、梅毒は性行為感染症つまりセックスでうつる病気です。性病というとどうしても不特定の方と性行為を行うような限られた方がなる感染症と思われている方が多いと思います。しかし感染した人の中で、配偶者や恋人などの「特定のパートナーとしか性行為をしていない」と答えた人が、男性では49%女性では84%という結果が出ました。今のパートナーはとても誠実で信頼できる方であったとしても、そのパートナーの前の彼女、のその前の彼氏、のその前の彼女・・・がどんな方とお付き合いしていたかなどたどることは出来ませんので、ごく普通の生活をしていても知らず知らずのうちに感染してしまっていることが十分にあり得るのです。ましてや不特定の相手と性行為をする人は、特定のパートナーとだけ性行為をする人に比べて、感染した経験のある割合がおよそ1.8倍に上ったという調査結果もあります。

こうした中で、私たちは自分、そして大切な人の体をどう守ればいいのでしょうか?次回は予防、検査、治療についてお話しましょう。
根本産婦人科医院  院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2024.06.14更新

季節の変化についていくのが大変ですね。
今日は⼥性の排尿の問題、尿失禁について。

尿失禁とは尿が漏れてしまう状態を指します。咳やくしゃみ、重いものを持ち上げたとき、運動などおなかに⼒が⼊ったときに、ちょっとだけ尿がもれてしまった、突然の尿意でトイレまで間に合わなかった、などのご経験はありませんか?日本では女性の30~40%が何らかの形で尿失禁の経験があるとされており、日常生活に支障が出て非常に困ってしまう場合もあります。
女性の尿失禁にはいくつかの原因があります。
まずは「おなかに⼒が⼊ったときに尿がもれてしまった」、このような状態を腹圧性尿失禁といいます。尿をためる膀胱の出⼝が緩んでしまったためにもれてしまいます。妊娠後期や産後にはかなり多くの⼥性が⼀時的に経験しますが、その後しだいに回復することが多いです。しかし妊娠・分娩による⾻盤底筋のゆるみ、その後の肥満、加齢による影響などが関係して起こりますので、年令とともに症状が再発することも多く、腹圧性尿失禁は30歳以上の⼥性の3⼈に1⼈は経験があり、40歳を超えるとさらに増加する傾向にあると言われています。
腹圧性尿失禁は治せる病気です。症状の軽い⼈は⾻盤底筋体操という⾻盤底筋群を強化する体操でかなり改善されますし、予防法としても効果があります。当院では骨盤底筋体操の指導をしていますのでご相談下さい。また尿失禁で来院し、骨盤臓器脱(子宮脱、膀胱脱)があることが分かることもあります。そのような場合、骨盤底筋体操と共に、下がってしまった子宮、膀胱をリングで上げてあげることで症状が緩和されることも多いです。
他には「急に我慢することができない強い尿意が⽣じトイレまで間に合わなかった」ことがあるという方も多いと思います。このような症状を切迫性尿失禁といいます。トイレで下着を下ろす間もなく我慢ができずにもれたり、⽔の流れる⾳を聞いたり、⼿洗いで⽔に触れるなどの刺激で尿意切迫感がおきやすくなります。また尿意切迫感があって、これに頻尿をともなう状態が過活動膀胱です。過活動膀胱では、尿意切迫感や切迫性尿失禁を気にして早めにトイレに通うようになり頻尿となりますが、軽度の場合などは少しずつ排尿間隔を延⻑することにより膀胱容量を増加させる膀胱訓練も有効です。さらに尿を出したいにも関わらず尿が少しずつ漏れる溢流性尿失禁、身体的な障害や認知症などによりトイレに間に合わない機能性尿失禁など、症状が強い場合は腹圧性尿失禁とは違って症状や原因に応じて薬や⼿術療法など適切な治療を選択することが重要です。

尿失禁は生命に直接影響するわけではありませんが、日常生活の質(QOL)に大きく影響を及ぼすことは言うまでもありません。遠慮せず、恥ずかしがらず、症状があれば一度ご相談下さい。
根本産婦人科医院  院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2024.06.07更新

不順な天気が続きますね。
このコラムも1年になります。外来で皆さんにご質問頂いた点、季節的にご注意頂きたい点、報道があった点などふと思いついたことについてランダムにお知らせしてきたので、1年目の節目にここらで一度項目の確認をと思いまして、今日はこれまでの項目を並べてみました。

2023/06
02更年期障害(総論)
09更年期障害(漢方)
16更年期障害(プラセンタ)
30更年期障害(HRT)
2023/07
07急報!子宮頸がんワクチンを受けて下さい!!
14急報!子宮頸がんワクチンを受けて下さい!!第二弾
21更年期障害(HRTの副作用)
28更年期障害(鍼灸、アロマセラピー、サプリ)
2023/08
04女性の「隠れ我慢」
18 PMS(総論1)
25 PMS(総論2)
2023/09
01 PMS(ピル)
08 PMS(漢方)
15 PMS(サプリ)
22 PMS(抗うつ薬)
29雑談(漢方薬について)
2023/10
06 外来で多く質問いただくことについて(不正出血・排卵確認・月経移動)
13インフルエンザ
20妊娠中のインフルエンザ対策
27更年期について再び
2023/11
10更年期以後にご注意いただきたいこと
17早発閉経
24手のしびれ、痛み、腫れ
2023/12
01卵子凍結
08月経困難症
15 子宮筋腫 
22子宮腺筋症
2024/01
12子宮内膜症
19思春期の月経困難症1
26思春期の月経困難症2
2024/02
02思春期の月経困難症3(低用量ピル1)
09思春期の月経困難症(低用量ピル2)
16低用量ピルの連続投与
23ダイエット
2024/03
01思春期のダイエット
08子宮頸がん検診
15プレコンセプション1
22プレコンセプション2
29子宮頸がんワクチン再び
2024/04
05人工妊娠中絶薬
12 子宮体がん
19妊娠高血圧症候群
26切迫早産について。
2023/05
10子宮脱
17マタニティブルーズと産後うつ
24妊娠中のスマートフォン
31妊婦さんに接種する RS ウイルスワクチンについて

皆さんの使い勝手が良くなれば幸いです。
根本産婦人科医院  院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2024.05.31更新

このコラムもちょうど1年になりました。
今日は妊婦さんに接種する RS ウイルスワクチンについて

最近歌手のさだまさしさんが出演しているRSウイルス感染症の予防啓発CMが流れていますね。このプロジェクトは、60歳以上の高齢者を対象としてRSウイルス感染症についての認知度を高め、予防啓発活動を行うものです。
RS ウイルス感染症は、主に新生児~小児がかかる感染症で、⽣後 1 歳までに 50%以上が、2 歳までにほぼ 100%が初感染します。症状は感冒症状から、上気道症状(⿐閉、⿐⽔、くしゃみ)、下気道症状(咳、呼吸困難、喘鳴)まで様々です。成⼈は⾵邪程度で済むことがほとんどですが、特に高齢者や基礎疾患を持つ方々には重症化するリスクが高い疾患ですので、高齢者の方々にはワクチンを接種して頂いた方がよいだろうということでさださんのCMになったのでしょう。
ただ、小児の感染症であることは変わりなく、特に生後6 か⽉未満では、重症化すれば肺炎、無呼吸、急性脳症などを引き起こしますし、その後の気管⽀喘息との関係性も指摘されていますので、やはりこの時期のお子さんにとって十分に注意しなければならない疾患といえます。しかしRSウイルスに感染し症状が出てしまっても治療は有効な治療薬はありません。ですから予防が重要になります。そのため現在、早産児や先天性⼼疾患など基礎疾患のあるハイリスク児に対しては、児に予防的に接種するワクチン(シナジス)が知られています。しかし、基礎疾患のない正期産で⽣まれたお子さんも重症化する可能性がないとはいえないので、妊娠中のお母さんに接種して母体の免疫を活性化させ、胎盤を介して赤ちゃんに中和抗体を伝えることで、新生児および乳児におけるRSウイルス感染症を予防する役割を果たすワクチンが開発されています。これまで妊婦に接種可能なワクチン対象疾患として、インフルエンザ、新型コロナウイルス、百⽇咳などがありましたが、本年 1 ⽉ に「妊婦への能動免疫による新⽣児及び乳児における RS ウイルスを原因とする下気道疾患の予防」の適応で、組換え RS ウイルスワクチンが製造販売承認を取得しました。このワクチンを妊娠 24 週から 36 週の妊婦に 1 回0.5ml を筋⾁内接種します。臨床試験において重度のRSウイルス関連下気道感染症に対して、生後90日で約80%、生後180日で約70%の有効性が示されております。ただし⽣後6ヵ⽉までの有効性が検証されていますが、⽣後6ヵ⽉以降の有効性は確⽴していません。また接種後 14 ⽇以内に出⽣した児についても、移⾏抗体が⼗分でない可能性があります。

今後、我が国の妊婦に対して接種の機会が増えていくものと考えられますが、具体的な運用、他ワクチンとの同時接種の可否や、⽇本での接種後の⻑期的な児への影響など現時点では不明な点もありますので、当院でも推移を見極めながら勉強会等を通じて接種に向け準備を進めているところです。
また詳細をお知らせしたいと思います。
根本産婦人科医院  院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2024.05.24更新

じめじめしてきましたね。

今日は妊娠中のスマートフォンについてよくご質問頂くのでここでまとめて。ただ、もちろん私も専門ではないのでにわか仕込みです。

スマホは現代生活に欠かせないものであることは間違いありませんが、暇さえあれば、ましてや大事なことがあるのにずっとスマホに夢中というママ・パパもいるのではないでしょうか。
まずは電磁波の赤ちゃんへの影響について。法務省によれば電磁波防護指針という指針に基づいて、安全性を検証した基準値が定められておりその設定でスマホは作られているとのこと。つまりスマホ使用により生活で浴びる電磁波は微量であり、人体への影響、赤ちゃんへの影響は無しとされています。
その上で、まずは長時間の使用を避けるのが原則です。猫背で長時間スマホを見続けるなど止めてください。ただでさえお腹の大きな妊婦さんは長時間同じ姿勢でいると体に負担がかかります。適度な時間で区切りながら姿勢にも注意してください。背筋を伸ばし、適切な姿勢で使用してください。
次にスマホの画面はLEDというブルーライトを多く発生するディスプレイです。ブルーライトは目の疲労を招く原因となり、頭痛、肩こりにもつながっていきます。さらにブルーライトが睡眠を妨げることがあることも分かっています。夜間とくに就寝前にはスマホは使わず、快適な睡眠時間を確保しましょう。妊娠中は赤ちゃんのためにも健康を保ちたいものです。適切な知識を持ち、賢くスマートフォンを使いましょう。
ついでに新生児への影響についてもご心配の方が多いので触れておきます。機嫌が悪い時などに見せるとおとなしくなるという素晴らしいアプリがたくさんありますので、子育てで大変な時についつい頼ってしまうのも十分に理解できます。ですからその特性を理解して頂き賢く利用するというスタンスが大切かと。
まず、スマホの画面で音声つきの動画などを見続けていると、脳は動くものを実物と認識する特性がありますので、「スマホの画面上で展開される世界が現実の出来事だと脳が誤認する」ようになってしまいます。一応大人は現実世界をすでに知っているので大きな問題は生じないのですが(あやしい大人もいますが)、現実世界での経験が未熟な0~2歳の子への影響は計りしれません。
さらに機嫌が悪くなったときにいつもあやしてくれるのはスマホ、という習慣が定着すると、子どもはしだいにママやパパではなく、スマホと愛着形成を築いてしまいます。愛着形成とは特定の養育者との間に結ぶ心の絆で、子どもの心の発達の基礎となるものです。スマホやタブレットを見ていると機嫌がよくておとなしいため、ママやパパがあやしたりして子どもの心に寄り添う機会も減ってしまいます。0~2歳代の間に親子でしっかり愛着形成を築くことは、その後の子どもの心身の成長や親子関係に深く影響します。日々大変ですが、子どもが泣いたときには優しく言葉をかけたり抱っこしてあげたり、こうしたお子さんとのスキンシップを通して、子どもは自然とママやパパに信頼感を寄せて愛着形成を築きます。スマホに愛着を形成させてはいけません。
その他、山ほどあるのですが、この機会にスマホの使い方を考えて頂けたら幸いです。
今は小学校に入学すれば1人1台タブレットが配布されるなどしてICT教育が始まりスマホやタブレットに触れる機会はどんどん低年齢化しています。せめて心や体、脳の発達の基礎を築く2才までくらいは、スマホやタブレットなどからは遠ざけて頂ければと思います。

最後に、最近感じることですが、ネット上の情報だけを追い求め頼りにしてしまうばかりに、ご自分の考えや何をしたいのかが見えなくなるなってしまう方が多いなということです。ネットの情報がそのままご自身・お子さんに当てはまるなんてことはまずあり得ません。ご自身・お子さんに一番ふさわしい選択肢は何か、を考えていくことも大切かと思います。その際、我々プロに相談頂いても良いでしょう。自身の妊娠、子育てに加え、確かな臨床経験をふまえた助産師、看護師が相談に乗ってくれますよ。
根本産婦人科医院  院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2024.05.17更新

今日は産後の気分不調であるマタニティブルーズと産後うつ病についてお話します。

出産は素晴らしい喜びの経験であるとともに妊娠の終了を意味します。出産直後は気持ちも高ぶっていますが、産後数日から2週間程度のうちにちょっとした気分の変化が出現することがあります。この精神症状はマタニティブルーズといい、出産後の女性のなんと30-50%が経験することが分かっています。ですから誰でもなる可能性があるといえます。多くはふいに涙が止まらなくなったり、いらいらしたり、落ち込んだり、人によっては、情緒が不安定になったり、眠れなくなったり、集中力がなくなったり、焦るような気分になったりします。このような症状は一過性であり、産後10日程度で軽快しますのであまり心配することはありません。
原因としては、出産という人生の大仕事をやり切った後の当然の疲労、気持ちの変化、続く子育てのスタートが自分のイメージしていたのとは違っているように感じて等もありますが、より根本的な原因として、妊娠が終了したことで女性ホルモン(エストロゲン)が劇的に低下したなど内分泌環境の変化に伴ってこれらの症状が現れると考えられています。ですから、ある意味、急激に起こったホルモンの減少により引き起こされる、限られた一定期間だけの当然の症状であると言えます。自分はダメな母親だとか考えるのは的外れで、「雨宿りをするような感覚」でやり過ごしてしまいましょう。そして、当然のことながら、周囲の理解が大切です。
ただマタニティブルーズが長引く場合、産後うつ病に移行することがあります。症状の強い場合や、もともと精神科や心療内科に通院している人も要注意です。またうつ病の既往がない女性でも有病率が17%に及ぶとされており、気分の落ち込みや楽しみの喪失、自責感や自己評価の低下などを訴えます。重症化した場合には、自死や虐待、児との愛着障害を引き起こすことも少なくありません。産後の女性にとって最も注意すべき合併症の一つといえます。マタニティブルーズが通常は1-2週間でおさまるのに対し、産後うつ病は症状が2週間以上持続、3か月以内に発症することが多いです。発症の背景要因として、うつ病の既往の他、パートナーからのサポート不足など育児環境要因による影響も大きいとされています。妊娠中から不安やうつの問題がおこっている場合も少なくないため、妊娠中からケアを行う必要があります。当院では、産後の健診は1カ月健診だけではなく1週間健診を必ず行い、さらに必要に応じて頻回に診させていただいています。
また当院ではEPDS(Edinburgh Postnatal Depression Scale:エジンバラ産後うつ病自己評価票)を用いたスクリーニングを行い、産後うつ病の早期発見と支援をしています。EPDSは、産後うつ病のスクリーニングを行うためのスケールで、10種類の質問項目に対して患者さん自身が記入した結果を点数化します。EPDSはあくまでもスクリーニングであり診断することはできません。疑わしい場合を早期に発見し、速やかに適切に対応できることを目指します。そのような場合はまずは適切な診断がなされるよう精神科医に紹介させて頂きます。産後うつ病と診断されたら、それはれっきとした病気です。気のせいとか気の持ちようという問題ではありません。放置していたら悪化するばかりで、適切な薬物治療が不可欠です。そして治療には薬物療法だけでなく、パートナーをはじめとした家族や、医療スタッフ、地域の保健師などとの連携が重要となります。そうした行政機関との連携した支援なども当院でコーディネートしています。

少しでも不安なことがあれば一人で抱え込まずに遠慮なく受診して下さい。
当院はこの時期を非常に重要であると考えており、産後ケア(宿泊・日帰り)でのサポート体制もいち早く充実させています。また当院には、自身の妊娠・出産・子育ての経験に加え、豊富な臨床経験を有する優秀な助産師・看護師が大勢おります。辛い時は大船に乗った気分でまずはご相談下さい。
そして繰り返しますが周囲のご理解が不可欠です。ご主人様はじめご家族の皆様にも今回のコラムはご覧頂きたいと思います。
根本産婦人科医院  院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2024.05.10更新

GWを越え不順な天候が続きますが、基本的には過ごしやすい良い季節になってきましたね。
今日は子宮脱についてお話ししましょう。

子宮脱とは子宮を支えるじん帯が緩み子宮が下がってしまい、最終的には腟から体の外に出てきてしまう状態です。中高年の女性に非常に多く、出産経験のある方なら誰にでも起こる可能性があります。初期には入浴中などに股の間にピンポン球のようなものが触れ、ビックリして受診される方が多いです。進行すると、日中歩いているときなどに何かが下がっている違和感が出てきて、それが夕方にかけて強くなっていきます。夕方以降に症状が強く出るのは、日中の動きで腹圧がかかり臓器を押し下げるためです。寝ている間は腹圧がかからないので、朝には症状が軽減しています。
出ているものは子宮が多いですが、手術で子宮を摘出した後に腟壁が出てくる腟断端脱。腟の前側にある筋膜が緩むことで膀胱が出てくる膀胱瘤。腟の後ろ側にある筋膜が緩むことで直腸が出てくる直腸瘤など様々な種類がありこれらが合併して起こることも多くあります。
通常、痛みはなく命に関わるものではありませんが、放置していると出ている子宮が擦れて出血したり、トイレが近くなったり、逆に尿が出にくくなり腎臓に負担がかかったり、また便が出にくくなるなど、日常生活に支障をきたすことがあります。
子宮脱の最大の要因は妊娠・出産、加齢です。子宮を支えるじん帯は妊娠で子宮が大きくなると引き延ばされ、さらに分娩時胎児が腟を通る際にも引き延ばされます。この引き延ばされたじん帯が加齢とともにさらに伸び、子宮を支えきれなくなってしまい子宮が脱出してしまうわけです。ですから妊娠・出産経験が無い方、帝王切開で分娩した方は、子宮脱を起こすことはほとんどありません。また腹圧も影響するため肥満、便秘による排便時のいきみ、慢性的なせき、重いものを持つ仕事なども子宮脱を起こす要因となります。
治療は、まずは何と言っても骨盤底筋体操。加齢で伸びてしまったじん帯を筋トレして引き締める体操です。骨盤底筋はお尻(肛門)を引き締める筋肉ですから、料理や読書、入浴時、寝る前などに行うなど生活の中に取り入れて頂くと習慣化し長く続けられるでしょう。当院では専用のパンフレットを用い骨盤底筋体操の指導をしています。初期であれば2~3か月で効果を実感できるようになります。この骨盤底筋体操は尿失禁を合併している方にも有効です。同時に腹圧によって症状を進行させないために、ダイエット、せき・便秘の改善、また日ごろから重いものを持たないようにするなど生活の見直しも大切です。
骨盤底筋体操や生活改善で中々効果が認められない時には腟内にペッサリーを挿入し子宮の出口に固定して子宮が出てこないようにおさえます。出し入れする時には若干の不快感があるかもしれませんが、日常生活では入っていることを忘れてしまうくらいの方が多いです。なので長期間入れっぱなしとなる方がいらっしゃいますが、長期間の留置では出血したり、炎症・癒着が起こることがあるので、必ず2~3か月に1回は受診して交換してもらって下さい。
それでも進行する時には手術です。腟から子宮を摘出し、膀胱と腟、または直腸と腟を支える筋膜・じん帯を補強する膣式子宮摘出+腟壁形成術などが一般的ですが、最近では腟壁と膀胱の間にメッシュを挿入して臓器を支える経腟メッシュ手術、腹腔鏡下仙骨腟固定術など最新の術式も出てきました。

繰り返しになりますが、子宮脱は出産経験のある方なら誰にでも起こる可能性があります。つまり若いお母さんでも将来なる可能性があるということです。今お悩みの方はもちろん、若いお母さんにもこの子宮脱について知った頂き、今のうちから骨盤底筋体操などしていただき備えて頂けたら幸いです。
根本産婦人科医院  院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2024.04.26更新

前回は妊娠初期から注意して頂きたいこととして妊娠高血圧症候群についてお話ししましたが、
今回は切迫早産について。

切迫早産とは「早産が切迫する」、つまり「早産しそうな状態」ということです。
早産とは妊娠37週より前に赤ちゃんが生まれてしまうことで、全妊娠の約5%に発生する決して少なくない状態です。ちなみに日本では妊娠22週より前に生まれてしまいますと早産ではなく流産と言いますので、正確に言いますと日本では「妊娠22週0日から妊娠36週6日までの出産」を早産と呼びます。「日本では」と言いますのは、流産と早産の境目は一言で言うと「助けられるかどうか」なので、国による医療技術の差で「助けられる週数」が変わってくるということです。そのため妊娠28週以降でないと助けられないので28週を越えないと早産として扱わない国も多くありますから、日本の新生児医療のレベルはとてつもなく高いです。助けられるといっても、例えば妊娠22週で生まれた場合、赤ちゃんはまだ500 gくらいの体重しかありませんので新生児集中治療室(NICU)での治療が長期間必要となりますし、早く生まれた赤ちゃんほど後で重篤な障害を発症する可能性が高くなります。また妊娠34週以降の正期産に近い時期の早産であっても呼吸障害など長期に障害を残すことがあることが分かっています。ですから大切なことは、妊娠中まずは定期的な健診を必ず受けていただくとともに、健診と健診の間でも、いつもと違う症状があったらすぐに受診して頂き、切迫早産の状態になっていないかを診断し、必要ならば早産にならないよう治療を開始することです。
切迫早産になると子宮が収縮しお腹のはりや痛みが規則的かつ頻回におこります。このお腹の張りはモニターで評価します。この収縮で子宮の出口が開いてきてしまい赤ちゃんが出てきそうになったら大変ですから、子宮の出口の長さ子宮頸管長を超音波で測定します。当院では症状の有無に関わらず、しかるべき週数で子宮頸管長を必ずチェックしています。また破水が先に起こることもあります。破水とは胎児を包んでいる膜が破れて羊水が流出する状態のことをいいます。膜が破けた刺激で子宮が収縮し始めることがありますので、破水も切迫早産の前兆となります。おりものが少し水っぽいなというのが実は破水であったなどということも日常茶飯事なので、自己判断せず必ず受診して下さい。
治療はまずは安静など日常生活の改善です。それでも改善しない場合は、子宮収縮を抑える目的で子宮収縮抑制薬を内服していただき子宮口が開かないようにします。また切迫早産の原因の一つでもある細菌による感染が疑われれば抗菌薬を使用することもあります。こうしたさまざまな治療でも改善しなければ入院していただき子宮収縮抑制薬の点滴治療を考慮します。
まれにお腹の張りの自覚なく、気がつかない内に子宮口が開いてしまう方がいて子宮頸管無力症といいます。この場合、子宮口を縛って開かないようにする手術、子宮頸管縫縮術を行うことがありますが、その効果はまだ明らかではありません。当院では症状の有無に関わらず、しかるべき週数で子宮頸管長を必ずチェックしていますので安心して下さい。
また、上のお子さんの妊娠時に早産になったことのある方はより早産になりやすいとされていますし、子宮頸癌や異形成のために円錐切除術という子宮頸部を切り取る手術を受けた方なども早産になりやすいといわれています。

切迫早産や早産の予防のためには、日頃から無理のない生活を心がけることが最も大切です。また妊婦健診をきちんと受けかかりつけの医師の指示によく従ってください。
次回、5/3はGW中なのでこのコラムはお休みです。
根本産婦人科医院  院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2024.04.19更新

今日は妊娠高血圧症候群についてお話したいと思います。

妊娠高血圧症候群は、このコラムでも何回か触れましたが、特に妊娠中期以降、妊娠前も含めそれまで何も問題なかった方が、突然血圧が上がるなどし母体や胎児にさまざまな症状を引き起こす疾患です。我々産科医が妊娠の管理をする際、最も注意している疾患の一つです。この妊娠高血圧症候群、かつては「妊娠中毒症」と呼ばれていました。大昔からあった疾患のようで、お腹の大きい妊婦さんが突然具合が悪くなるのを見て、昔の人は赤ちゃんから毒が出てこのようになる、つまり「中毒」と考えたのかもしれません。もちろん胎児から出る毒が特定されたことは無く、現在ではこれらの症状を引き起こす原因として血管内皮の障害による血管の異常収縮と血小板減少による血液凝固異常が関連していることが明らかとなってはいます。ですが、なぜこのような血管、血液の変化が引き起こされるかは未だ不明です。いずれにしても原因は胎児ではなく、母体の高血圧が主体であるので、名称が正しく「妊娠高血圧症候群」となりました。
妊娠高血圧症候群は初期には比較的自覚症状が少ないとされています。ただ進行し血圧が上がれば頭痛や目がチカチカする、手がしびれるといった症状を生じることがあります。これは子癇(しかん)と呼ばれるけいれん発作の前兆であることもあり、子癇が治まらない場合は意識障害や脳出血を引き起こすなど、母子ともの命におよぶ危険につながることも少なくありません。また腹痛(胃痛)や吐き気・嘔吐が起こり、それが妊娠高血圧症候群の重症型であるHELLP症候群の前兆であることがあります。HELLP症候群は血液中の血小板減少に伴う肝臓機能の障害によって引き起こるとされています。ですから子宮というよりは子宮よりも上の肝臓が痛むので、しばしば「胃が痛い」などという表現となります。この症状がHELLP症候群の現れであると急激に進行しますので、いずれにしても頭痛、腹痛などの症状がある際は早めに受診をすることが大切です。
血圧の目安としては収縮期血圧が140mmHg以上あるいは拡張期血圧が90mmHg以上になった場合高血圧が発症したといいます。収縮期血圧が160 mmHg以上あるいは拡張期血圧が110 mmHg以上になってしまったら重症です。その他、尿中に蛋白が出ていないかなども含め診断します。妊娠高血圧症候群と診断されたら、軽症であれば医師より自宅療養の指導があり定期的な診察を行うなどの経過観察となります。しかし突然重症化することもあるため、軽症であったとしても医師の判断により入院となる場合もあります。
重症の妊娠高血圧症候群の場合、けいれん予防や高血圧改善の薬を使うこともありますが、様々な治療に反応せず母子ともにリスクが高いと判断された場合は、分娩誘発や帝王切開で妊娠継続を終了させる必要が生じることもしばしばです。

妊娠高血圧症候群は妊婦さんの約20人に1人に起こるけっして少なくない病気です。しかし、繰り返しますが、詳細な原因は未だに解明されていませんので、予防する方法も確立されてはいません。そのため妊娠初期から出来ることは、高血圧にならないための生活を心がけて頂くことです。健やかな妊娠・出産のためにも、妊娠前よりもいっそう健康に留意し、適度な運動、栄養バランスの良い食生活を送りましょう。具体的な相談は遠慮なく。アドバイスはいくらでもします。そして何かあったら、いつでも躊躇せずご連絡下さい。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2024.04.12更新

このコラムを書いております4月9日は「子宮(49)の日」です。あまりご存じない方が多いと思いますが、記念日登録されているれっきとした記念日だそうです。この日を中心に日本全国で子宮がん予防・啓発キャンペーンが行われますが、まだまだ皆さんの耳に届く感じではなかったのではないでしょうか?この「子宮の日」は「子宮頸がんを予防する日」という意味合いが強いのですが、子宮頚がんについてはこのコラムで何回も触れてきましたので、今日はあえて、もう一つの子宮がんである「子宮体がん」についてお話ししましょう。
子宮体がんは子宮の奥、内膜部分に発生するがんで、子宮頸部(手前)に発生する子宮頸がんとは異なります。子宮体がんのほとんどは子宮内膜から発生するため、一般的に「子宮体がん」のことは子宮内膜がんともいわれます。
子宮体がんは国が定めるがん検診の対象にはなっていません(50歳以上は、市のがん検診に追加できます)ので、子宮体がんを早期発見するために普段から気をつけたい症状や、リスク因子を知っておくことが大切です。
初期からの症状としては、不正出血です。子宮体癌の9割の方に認めます。不正出血は、月経不順、ストレスなどでも起こりますが、色とか量とか関わりなく、生理ではない出血があったら不正出血として必ず婦人科を受診しましょう。閉経後も同様です。進行すると下腹部痛、性交痛、腰痛、下肢のむくみなどの症状が現れることもあります
次に原因ですが、子宮内膜を増殖させる働きがある女性ホルモン、エストロゲンの関与が分かっています。エストロゲンの働きが過剰になると子宮内膜が増殖しすぎて、子宮内膜にがんが発生しやすくなるというわけです。ですから、まず、妊娠・出産経験がない方はリスクが高くなります。妊娠・授乳中は一定期間エストロゲンの働きが抑えられますのでエストロゲンへの暴露が無い時期を設けることが出来るわけですが、妊娠・出産の経験がないとエストロゲンにさらされる状態に休みがないということになり、子宮体がんのリスクが高くなるわけです。同じ理由で30歳以上で月経不順がある方もハイリスクです。閉経までエストロゲンの分泌はあまり変わりませんが、月経不順があると年齢と共に子宮内膜の増殖を抑えるプロゲステロンの分泌が低下します。その結果、月経不順が長期間ある場合は、エストロゲンが相対的に多くなり子宮体がんのリスクが高くなります。また肥満もリスク因子です。エストロゲンは、卵巣以外に体の脂肪組織でもつくられているため、肥満があるとエストロゲンの分泌が過剰になります。BMIが27を超えると子宮体がんのリスクは2倍近くになることがわかっています。
また子宮体がんの2-5%程度は遺伝性のものとされます(Lynch リンチ症候群といわれます)。血縁者に50歳未満で子宮体がん、大腸がん、胃がん、泌尿器系のがんなどを発症した人がいる場合は、子宮体がんになる可能性がやや高いと考えられるため注意が必要です。

子宮体がんの好発年齢は、子宮頸がんに比べてやや高齢で50~60歳代とされています。しかし、昨今の女性を取り巻く社会状況の変化、 未妊、肥満などの要因に加え、遺伝の関与も明らかとなり、比較的若い年齢で子宮体がんを発症するケースも少なくなくなってきました。月経ではない出血があった場合は必ず子宮癌検診を受けて下さい。
根本産婦人科医院 院長  根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

前へ 前へ
スタッフブログNEW Babies献立日記