ドクターコラム

2023.10.20更新

大分秋らしくなってきました。
今回は妊娠中のインフルエンザ対策です。結論から言いますと、妊婦さんもインフルエンザワクチンを心配なく安全に接種出来ますし、もしかかってしまっても治療薬が使えます。早めの対策をお願いします。

妊婦中は体力や免疫力が下がっているためウイルスに感染すると非妊娠時よりも重症化してしまうことがあることは、コロナ大流行時にざまざま報道されたりしましたので皆さんのご記憶に新しいかと思います。この抵抗力が下がっていることに加え、徐々に大きくなるお腹に肺が圧迫され肺が小さくなってしまっています。この小さくなった肺にウイルス感染による炎症が加わりますと、肺に十分酸素が行き渡らなくなってしまい大変な息苦しさになってしまいます。肺炎で息苦しいということは血中酸素濃度が下がっているということであり、これは赤ちゃんに供給される血液中に十分な酸素が含まれなくなるということを示唆、胎児も苦しくなることは容易に想像できるかと思います。
また赤ちゃんの部屋はたっぷりの羊水で満たされておりその水が母体の熱も緩衝してくれますから、母体の熱がそのまま胎児にいくことはありません。しかし極端な高熱が長時間続きますと赤ちゃんの部屋もさすがに暑くなってきます。胎児の心拍数は1分間で110~160回位、大人の約2倍から3倍でとても速いです。胎児としてはこの心拍数が正常でもちろんこれで問題ないわけですが、部屋が暑くなると大人だってドキドキしてきますから、さすがの赤ちゃんも180回、200回と心拍数が上がりますとヘトヘトになってしまいます。
もちろんインフルエンザウイルスの胎児への直接の影響はほとんどないといっていいですが、このように肺炎の重症化による母体の呼吸困難がもたらす胎児への酸素供給不足、母体発熱による胎児環境の高温化等は影響する可能性があります。
こうした理由から、妊婦さんは感染予防を徹底すること、そして、もしインフルエンザにかかった場合はすぐに治療をすることが大切です。予防には、うがい・手洗い・マスクですが、同時に大切なのが妊婦さんこそワクチンです。インフルエンザの重症化を予防する最も有効な方法は、インフルエンザワクチンの接種を受けることです。もちろん、妊婦さんに対してもインフルエンザの予防接種が推奨されています。妊娠中のインフルエンザワクチン接種が、生後6ヶ月までのインフルエンザ罹患率を下げることも分かっています。生後半年未満の乳児はインフルエンザワクチンを打つことができないので、妊娠中に予防接種を受けておくと生まれた赤ちゃんの健康を守ることにもつながりますね。
もし妊婦さんがインフルエンザにかかった場合、妊娠していない患者さんと同様「タミフル」や「リレンザ」などの抗インフルエンザ薬が使用できます。先週述べましたが、抗インフルエンザ薬は、発症後48時間以内に服用しなければ効果が発揮されないため、インフルエンザを疑う症状が現れたら早めに受診しましょう。

どうもお母さん、赤ちゃんの話になると熱くなってしまい長くなってしまう。以後気をつけます。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2023.10.13更新

待ちに待った過ごしやすい季節になってきました。これからどんどん涼しくなっていきますが、今年は例年になく早いペースでインフルエンザの流行がやってきそうです。千葉県ではすでに「今後4週間以内に大きな流行が発生する可能性があることを示す注意報レベル」を超え、インフルエンザの感染が例年にはないような早い時期に広がりを見せています。同時にせき止め薬などの薬不足が深刻な状況になってきそうです。是非早めにワクチンをお受けいただきたいと思い、本日はインフルエンザについてお話します。

インフルエンザ感染症は、インフルエンザウイルスに感染することで、高熱や喉の痛み、関節痛・筋肉痛みなどを引き起こす感染症です。通常、毎年冬場に流行することが多いですが今年は早いですね。重症になると肺炎や脳炎などを起こし、意識障害や呼吸困難などを起こすことがあります。
このインフルエンザウイルスに対するワクチンがインフルエンザワクチンです。接種すればインフルエンザに絶対にかからないというものではありませんが、感染しても発症を70%程度抑えることが出来、また90%という高率で重症化を阻止する効果があります。ですがこのワクチン、接種してから効果が出るまで約2週間かかります。つまり今日接種しても、効果が出るのは月末ということで、その頃には大流行の入り口に入っているかもしれません。ですから本年は早めの接種をお願いします。ただしインフルエンザワクチンはその製造過程で微量ですが卵の成分が入るため、重度の卵アレルギーや鶏肉アレルギーがある方は注意が必要です。接種を受ける前に必ず医師に確認しましょう。
もし突然38℃を超える高熱や関節痛、全身の筋肉痛などの重い症状があらわれたら感染した可能性があります。感染を予防するのがワクチンですが、かかってしまってもインフルエンザには治療薬があります。侵入したウイルスの増殖を抑えることで、症状を和らげたり、症状が治まるのを早くする効果が期待されます。ただし、症状が出てから48時間以内に使い始めなければ効果が乏しいので早めの診断が重要になります。鼻の奥を綿棒で拭うことでわかりますので早めに検査を受けて下さい。
最後に妊娠中の方へ。次回詳しくお話しますが、妊婦さんに対してもインフルエンザの予防接種が推奨されています。治療薬も使えます。また生まれてくる赤ちゃんがインフルエンザにかかる確率が下がることが分かっています。当院でも、例年より早く今週からワクチン接種と開始していますので、妊婦さんこそ早めのワクチン接種、治療をお願いします。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2023.10.06更新

昨日は定例の院内勉強会でした。医師、スタッフのスキルアップを目的に月一回のペースで行っています。テーマは産科領域、婦人科領域、新生児について等様々で、日ごろ不安・疑問に思ってること、もう少し深く知りたいことなどをリクエストしてくれます。うちのスタッフたちは大変に優秀なので、こちらもしっかり準備して臨まないといけませんから結構大変ですが、勉強になりますし、何より患者さんのためになると思って皆で続けています。
今日は、そんな患者さん思いのスタッフ皆様から「これはあらかじめ患者さんにお知らせしておいた方がいい」と教えてもらった点を。

□不正出血について
生理以外の出血は量、性状、色等に関わらず、すべて不正出血です。原因は生理不順、ホルモン異常、排卵出血、妊娠、子宮筋腫等々様々ですが、「子宮癌からの出血ではない」ことの確認は緊急性があり必須です。出血中でも何ら問題ありません。出血が止まってからなどと先延ばしにしないで速やかに子宮癌検診を受けて下さい。逆に癌からの出血ではないことさえ確認すれば別にあわてる必要は無いわけです。
□排卵日の確認について
不妊治療で必須なのが排卵日の特定です。市販の排卵チェッカーはとても高いですし、ご自身で判定するのがやや難しい場合がありますので、こちらで超音波等々駆使し正確にお教えします。いつ来院して頂いても結構ですが、最初は生理が始まった日を1日目として大体14日目に排卵するとして、その少し前、11~13日目くらいにお越し頂くと良いです。
□緊急避妊ピルについて
有効期限は72時間、3日間です。3日を過ぎると効果が期待できない場合があります。必ず3日以内にお越し下さい。
□月経移動について
旅行、行事などで生理日を移動したい場合、次回生理予定日の5日前から来てほしくない日まで中容量ピルを内服して頂きますと生理を遅らせることが出来ます。ので、出来ましたら次回生理開始予定日の5日以上前に来院ください。不順な方は、想定される一番早い生理開始日の5日前からになります。
生理を早める方法もありますのでご相談下さい。

他にもたくさんありましたがまた別の機会に。
少しいい季節になってきましたね。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2023.09.29更新

今回は、漢方薬について少しお話させて頂きます。

漢方薬は中国の薬というイメージがあるかもしれません。しかし、現在、日本の医療で用いられている漢方医学は、2000年近く前、中国から伝わった医学が、その後、日本の風土や気候、日本人の体質や生活に合った医学として発展していった日本オリジナルの医学です。現在の医学部の教育でも必ず漢方について学ぶことになっています。従いまして西洋医学と漢方医学、両方の視点からその人にあった薬を処方するという日本の医療は、世界的にみても非常にまれなことと言えます。皆さん、日本にいて良かったですね。もちろん漢方薬と西洋薬を併用する場合、とくにカンゾウ、マオウ、ダイオウ、ブシなどが含まれている漢方薬には注意する必要がありますので、他に飲んでいる薬がある場合は必ずお知らせください。
漢方は良く分からないというお声を良く聞きます。実は漢方薬の作用機序については研究が進み、徐々に明らかになってきています。例えば風邪のひきはじめに効果を発揮する葛根湯ですが、発熱の急性期に炎症を誘導するIL(インターロイキン)の産生を抑制する作用を持っているため風邪の初期段階において炎症を抑える効果を発揮、また同様に免疫を司るNK(ナチュラルキラー)細胞の活性化を促すことで免疫を高めることが期待されています。このように漢方薬は漠然とした作用を期待するものではなく、西洋薬同様に確固たる作用メカニズムを有することが示唆されています。
漢方薬は食前または食間に服用するようにお願いしています。これは漢方薬がそもそも自然の植物などを原料とする生薬から構成されているので、食品にも含まれる様々な効用と相互作用を引き起こすことを懸念するためです。よく「お茶、ジュースなどで飲んでもよいか?」とのご質問もいただきますが、そのような意味でも漢方薬は水または白湯で飲みましょう。飲む前にうっかり食事を摂ってしまった場合も、慌てずに食間に内服して頂ければ結構です。ちなみに食間とは「食事中」ではなく「食事と食事の間」ということで、食後2時間以降くらいのイメージでいいでしょう。ただ漢方には人によっては胃に負担がかかるものがありますので、そのような方は服用後すぐに食事を摂っていただくようお勧めしています。
また飲み忘れた時はスキップで結構です。一度に2回分服用しないでくださいね。効果が強く出過ぎてしまう場合があります。

そろそろ猛暑の疲れが出るころですね。ご自愛下さい。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2023.09.22更新

今日はPMSに対する抗うつ薬の治療についてお話をし、PMSのシリーズをおしまいにします。
月経前の2週間だけひどく気持ちが落ち込むなどの症状がピル等ではなかなかコントロールできない場合、抗うつ薬のSSRI(Selective Serotonin Reuptake Inhibitors)を使うとすごく良く効く場合があります。SSRIはセロトニンという脳内神経伝達物質の減少を抑える薬です。このセロトニンが足りなくなると、抑うつ、不安、緊張、イライラなどが高まりやすくなったり、痛みを感じやすくなったりするので、SSRIは主にうつ病の治療薬として使われているわけですが、PMSはうつ病ではないので毎日服用する必要はなく、症状の出る月経周期後半の2週間だけとかという使い方をします。抗うつ薬を処方されると「わたしうつなの?」とびっくりさせてしまうことがあります。くりかえしますが、うつではありませんが抗うつ薬の作用メカニズムがPMSに有効である場合があるというだけです。

ここ数回、月経前症候群(PMS:PreMenstrual Syndrome)についてお話させて頂いてきました。まず、PMSは「ホルモンバランスの乱れが原因ではなく排卵を抑えるといい」ので、ピル、中でも「ドノスピレノン含有」のものが良いと紹介しました。つぎに漢方薬についてざっと述べました。随伴する症状に合わせ、患者さんと一緒にオーダーメイド的に見つけていっています。そして、前回、利尿作用に着目したサプリの紹介もさせて頂き、今回抗うつ薬の話をしました。

最後に一番大切な日常生活です。
適度な運動、適切な睡眠が大切なことは言うまでもありませんが、特に食事について。
イライラすると甘いものが欲しくなるので、PMSの方は特に月経周期後半、チョコなど甘いものの摂取が多くなりがちです。甘いものを食べ過ぎるとその調整でダイエット、特に主食つまり炭水化物、タンパク質を控えてしまう方がいます。甘いものでは当然血糖値が上がり、炭水化物を控えると血糖値が下がります。この血糖値の変動もイライラの原因となるのです。アルコールの摂り過ぎも同様です。またタンパク質は、抗うつ薬のところで触れた脳内神経伝達物質セロトニンの原料です。ですからタンパク質を控えるということはセロトニンが足りなくなることに通じます。要は甘いもの、アルコールの摂り過ぎには用心して頂きながら、是非、きちんと三度三度の食事は適切に摂って頂きますようお願いします。

猛暑も出口が見えてきました。適度な運動を始めるなど生活改善にはもってこいの季節になります。無理のない範囲で出来ることから始めてみてはいかがでしょうか?
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2023.09.15更新

少し過ごしやすくなってきましたかね。

今日は月経前症候群(PMS:PreMenstrual Syndrome)治療のサプリについてお話させて頂きます。
サプリの話に入る前に、利尿薬(おしっこを出しやすくする薬)について。
PMSでみられる症状、月経前のむくみ、頭痛、乳房痛、お腹が張る、体重増加などはすべて不適切な水分貯留に関係しています。ですから尿をどんどん出してあげて水分を引いてあげればむくみなどが軽減しPMSに効果があるのではないかと考えられるわけで、実は利尿薬の中にはPMSの治療薬として認められているものがあります。しかし尿量の調整はとても微妙なので安易に利尿薬そのものを使うことはあまりありません。すこしややこしい話になります。9/1のこのコラムで「数多くあるピルの中で、黄体ホルモンの一種である『ドノスピレノン』含有のものがPMSに効果が期待できる」と述べましたが、このドロスピレノン、実は利尿薬であるスピロノラクトンの誘導体(体内で分解されてできるもの)なのです。さらに月経前の水分貯留と精神症状に関係ありとの報告もあり、利尿薬ひいてはドロスピレノンがPMSに効果がある理由と考えられています。いずれにしましても利尿作用のあるものがPMSに良いらしいということになります。そこで利尿作用のあるものとしてビタミンEが注目されています。ビタミンEには8種類ありますが、これまでのビタミンE製剤に入っていたのは主にα-トコフェロールというビタミンEでした。残念ながらこの8種類中で利尿作用の期待できるのは、αではなくγ(ガンマ)、つまりγ-トコフェロール、γ-トコトリエノールの二つ(合わせてγ-トコ複合体といいます)であることが分かっています。このγ-トコ複合体、7/26の更年期障害の治療としてこのコラムで紹介した豆腐などの原料となる大豆に含まれるイソフラボン製剤であるエクオールに含まれています。私は大塚製薬の回し者ではありませんが、このようにPMSにも効用があり、『エクエルプチ』(大塚製薬)は医院でしか手に入らないので当院で採用しているわけです。ピルはちょっと嫌だなという方にはお勧めしています。

今回もやや専門的な話になってしまい申し訳ありませんでした。分かりにくい点は外来で何でも説明しますから遠慮なく聞いて下さい。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2023.09.08更新

今回はPMS治療に使う漢方薬についてざっと述べます。これはPMSの患者さんに使ってもらったら劇的に効いてとても喜んでもらったぞという私の個人的な処方経験を含みますし、相変わらずこのコラム、長すぎて読む気がしないというスタッフの不評もあり、あくまでもざっとです。ご覧くださっている先生方もいらっしゃるようですがお手柔らかに(笑)。

当院では婦人科3大処方と言われる、当帰芍薬散、加味逍遥散、桂枝茯苓丸を基本にしています。当帰芍薬散は冷え、肩こりなどの方の血流を整えるのでPMSでも第一選択ですが、PMSはイライラ、落ち込みなどの精神症状がある方も多いですので加味逍遥散から始めることが多いかもしれません。精神症状がメインでない方は桂枝茯苓丸もいいでしょう。
これら3大処方で今一つの方は次のステップです。生理痛もある方には温経湯、桃核承気湯、不眠がつらかったら抑肝散、加味逍遥散で精神症状のコントロールが不十分だったら抑肝散加陳皮半夏、むくみが強い方には五苓散、喉のつかえがあれば半夏厚朴湯等々、手はたくさんあります。患者さんと一緒にオーダーメイド的に見つけていきます。全て保険適応です。
漢方薬は、食前に飲むのが効果的です。
次回、もう少し、PMSの治療について。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2023.09.01更新

前回、月経前症候群(PMS:PreMenstrual Syndrome)は「ホルモンバランスの乱れが原因ではない」、むしろ「ホルモンが正常で、きちんと排卵している方に誰でも起こりうる症状」である、したがって排卵を抑えてあげれば何とかなるというお話をさせて頂きました。今日は治療についてです。

排卵を抑えるといいので、まずはピル。(ピルの一般的な話は何回か前に更年期HRTのところで触れましたので興味ある方はそちらを。)ピルには排卵後に分泌される黄体ホルモンが含まれています。黄体ホルモンを投与することで常に黄体ホルモンが存在しているという状態となります。そして黄体ホルモンが存在しているという状態は排卵後の状態ですから、黄体ホルモンがあると脳は排卵は終わっっていると認識するわけです。つまりこれ以上排卵させる必要がないと判断するため排卵が抑えられます。
ピルにはエストロゲンの量の違いと黄体ホルモンの種類の違いで様々なものがありますが、数多くあるピルの中で、我々が参考にしている『OC・LEP(ピルのことです)ガイドライン』には、数あるピルの中でも「ドロスピレノン含有」のものがPMSに効果が期待できるとの記載があります。ドロスピレノンは黄体ホルモンの一種です。やや専門的な話になりますが、ドロスピレノンには黄体ホルモンの働きとともに、抗ミネラルコルチコイド作用と抗アンドロゲン作用という作用があるため、ニキビやむくみの予防や改善にも寄与すると考えられます。これはドロスピレノンが体内で分解され活用されていく流れの中で出てくる反応物質が、抗ミネラルコルチコイド作用と抗アンドロゲン作用という作用を持つためですが、実はまさにこの中間反応物質もPMSにドロスピレノンが有効な理由なのではないかとの説があります。当院ではドロスピレノン含有の「ヤーズ」というピルを処方します。

 PMSの治療、まだ漢方、サプリ、抗うつ薬など様々あるのですが、また長くなるので次回。
記録的な猛暑が続きます。お身体ご自愛ください。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2023.08.25更新

前回、多くの女性が月経前症候群(PMS:PreMenstrual Syndrome)を経験しているにも関わらずほとんどの方が我慢している、そして女性の社会活躍のうえでもPMSは多くの弊害があるというお話をしました。
このPMS、最近では様々認識されるようになったようで、患者さんに分かりやすいように作られたパンフレットもいろいろありますし、大塚製薬のサイト(PMS(月経前症候群)ラボ (otsuka.co.jp))にもチェックシート的なものがありましたので参考にしてみるのもいいかもしれませんね。
原因ですが、説はさまざまありますがまだ分かっていません。ただ多くの患者さんが誤解されておられますが、ホルモンバランスの乱れが原因ではないことは分かっています。PMSの方と非PMSの方の女性ホルモンの動態を調べた研究で、両者には全く差がないことが示されています。多くの方が「ホルモンバランスを整えたい」といらっしゃいますが、PMSの原因はホルモンバランスの乱れではないのです。また同じ方でも、無排卵周期の時は症状がないことも分かっています。ですから、今、分かっていることを、誤解を恐れずに一言で言えば、「ホルモンが正常で、きちんと排卵している方に誰でも起こる症状」と言うことが出来ます。ですから、排卵を抑えてあげれば何とかなるわけで多くの方にピルで楽になっていただいています。
ただピルには抵抗が・・・、という方も多いので、ピルをはじめ、漢方、サプリ等々、他の選択肢も様々です。

次回は具体的な治療法についてお話しましょう。

根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2023.08.11更新

前回、女性の「隠れ我慢」についてお話させて頂きました。今回はその中で触れた月経前症候群(PMS:PreMenstrual Syndrome)についてです。
PMSは、「月経前3~10日の間に続く心理的、身体的症状で、月経とともに減退、消失するものが、過去の生理で3回以上連続して起こっている場合」と定義されます。心理的な症状は、うつっぽい、怒りやすい、イライラ、不安、混乱した気分などです。身体的な症状は、体重増加、手足のむくみ、乳房・おなかの張り、頭痛・筋肉痛などです。これらの症状のうちどれか一つでもあれば月経前症候群と診断されます。ですから例えば「そう言えばここ半年くらい、生理が始まるとスッキリするが、生理前は1週間くらいむくんだり、お腹が痛かったり、気分が落ち込む」方はPMSです。
女性の95%は月経前に何らかの症状を経験しており、その66%がPMSであることが分かっています。そしてなんと63%もの方々が何も対処していないことが分かりました。くしくも前回の「隠れ我慢」と同じ結果になります。おそらく、生理前の不調は当たり前と思い込んでいる人が多く、受診せず我慢しているのでしょう。女性の皆さんは頑張り過ぎです。
女性の社会活躍、働くうえでも月経前の症状は様々な弊害になっています。PMS症状により退職を考えたことがある人が58%、55%の方が昇進の辞退を考えたそうです。また学業・競技にも支障を来しているデータも出ています。
このように、多くの女性が経験し、女性の活躍を阻害しているにも関わらず、多くのPMSは治療されていないというのが実態です。受診して治療を行えば改善するのですから、我々産婦人科医がきちんと対応するべき疾患と考えます。

次回はもう少しPMSについて。
来週はお盆なのでお休みです。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

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