ドクターコラム

2024.01.26更新

ここ数回にわたり月経困難症について触れてきました。特に前回は子宮内膜症による月経困難症につき、将来的な妊孕性(妊娠できる力)確保のためにも早期の診断・治療が必要と述べました。この子宮内膜症による月経困難症治療を、早期(思春期でも)から始めることの重要性を理解して頂きたいというのが、実はこの月経困難症のシリーズを始めた最大の動機です。

もちろんこの思春期の時期は月経そのものがまだ安定していません。体と心が急激に変化していく時期でもあります。生理痛の現れ方も様々ですし、生理痛だけでなく、腰痛、むくみ、ニキビ、食欲不振、下痢、吐き気など、この時期には体の変化が突然かつ次々と起こってきます。こうした体の変化に加え、体の変化に気持ちがついて行けず学業や部活動、友人関係などに影響を与える、ということは調査結果から明らかになっています。また、こうした変化に対する戸惑いをほとんどの方が誰にも相談できず我慢してしまい、さらに悪化させてしまっているということも分かっているため、様々な不安を軽減するためにもまずは受診していただき診断をつけることが大切です。産婦人科の受診についてはハードルがとても高いことは容易に理解できますが、前回も触れましたが内診等苦痛を伴う診察は行いませんので、まずは親御さんに連れてきて頂くことでそのハードルを取っ払えればと思っています。またこの時期から産婦人科医師をかかりつけ医として持っておくことは、将来的な健康において非常に大切です。お子さんが安心して受診できるよう親御さんのサポートをお願いいたします。これまで周期的に来ていた生理が来なくなった、生理痛・強い吐き気や頭痛などで生理中は学校を休みがちになったなどの場合は受診させてください。
治療は鎮痛剤、鍼灸、漢方薬、サプリメントなど含め、患者さんに合わせてあらゆる角度から様々に行っています。ただ子宮内膜症が疑われた場合は、現在困っている生理痛だけではなく、将来的に起こってくる可能性のある様々な不都合に対処しておく意味でも、やはり低用量ピルが良いでしょう。また生理不順は鎮痛剤では改善できないため、この場合も低用量ピルの適応となります。
ピルの基本的なお話につきましては、以前のこのコラムで触れておきましたので参考にしていただくとして、そもそも「こんなに小さい子にピル?!」というご心配もごもっともです。結論から申しますと、使用しても問題なく体への影響は心配ありません。思春期の生理痛・生理不順には、低用量ピルが「初経後3カ月が経過すれば安全に使用できる」というのがWHO(世界保健機構)はじめ各学会等の見解です。とはいえ、ご心配は尽きないと存じますので、次回は思春期の女の子の低用量ピル服用に対して皆さんが不安に思っておられるであろうことについてお話します。

まだ生理が始まったばかりの思春期の方にとって、生理中の不都合はただ痛いなどだけではなく大きな不安を伴うものでもあるのです。繰り返しますがお子さんが早いうちから産婦人科にかかることが出来るよう、親御さんはじめお子さんが信頼できる大人にサポートして頂けることを願っています。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2024.01.19更新

厳しい寒さが続きます。
被災地の方の健康を祈らずにはおられません。

前回子宮内膜症のあらかたの成り立ちなどについてお話しました。痛みだけではなく、将来を見据えた対応が必要ですと。
今回は思春期の月経困難症についてです。
子宮内膜症は20代後半から発症することが多いと言われていますが、前回述べましたとおり、これは痛み止めが効かなくなって初めて受診して診断される方が多いためかもしれません。しかし鎮痛剤は痛みを軽減するだけで内膜症の原因を治療するものではありませんので、痛み止めが効いている間にも内膜症は進行しお腹の中の癒着が形成されていってしまうかもしれないことも前回お話しました。ですから20代後半まで生理中の痛みを鎮痛薬だけで対処していると、気づかないうちに子宮内膜症が進行しお腹の中の癒着が進んでしまう可能性があるということです。この癒着が卵巣まで及びますと月経痛だけではなく排卵痛が強くなってきます。また卵管にまで及びますと卵管狭窄、卵管閉塞などを引き起こしてしまいます。卵管がつまれば排卵された卵胞を取り込めませんから、将来不妊につながる可能性も指摘されています。つまり将来妊娠できる力をキープするためにも早めに適切な対応することが必要だということです。ましてや近年の傾向として、出産する年齢が高くなってきています。30歳代になるまでに妊娠をしない方も多いです。妊娠を望んだ時に妊娠できる力をキープするということを考えて、症状がある場合は早いうちから速やかに治療を開始することが大切です。早いうちというのは10代、場合によっては小学生も含みます。月経痛が毎月しんどい、だんだんと辛くなったきた、痛み止めが効きづらくなってきた、効かなくなってきた、またそれに伴って登校が遅れる、休みがちになるなどして授業に支障が出てきたなどが受診のタイミングかと。もちろん思春期の患者さんに内診等行うことはありませんので安心して受診して頂き診断を受けてください。

治療は低用量経口避妊薬(LEP)を中心としたホルモン療法が良いでしょう。低用量経口避妊薬を使うことで子宮内膜症の進行を抑え将来妊娠しやすい体を保つことができるからです。結論から言いますと思春期の女性への低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP製剤)投与には問題はありませんが、ご心配も最もですので、次回はその辺にについて少し詳しくお話しましょう。当院では数多くの小中学生や高校生が低用量ピルで生理痛から解放され喜んで頂いています。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2024.01.12更新

本日は子宮内膜症について。
子宮内膜症の「子宮内膜」とは子宮の真ん中にある膜です。膜というくらいですから元々はとても薄いのですが、月経周期に伴ってだんだんと厚くフカフカになります。厚くなるのは受精卵を着床させやすくするためで、もし受精卵が来なければ厚くなった内膜は剥がされ元の薄い膜に戻ります。この厚くなっていた分の内膜が排出される現象が月経です。子宮内膜を含む血液が子宮口から出るのが月経血ですが、一部お腹の中に出てしまうことがあります。どうしてお腹の中に出てしまうかは未だ全て明らかにはなっていませんが、卵管から逆流してしまうことなどが考えられています。お腹の中に出てしまうと子宮壁、卵巣、卵管、腹膜、その他の臓器にくっついて増殖し、腹腔内の癒着、炎症を引き起こし痛みの原因となります。これが子宮内膜症です。手術でお腹の中を見てみると、むしろ子宮内膜がお腹の中に全く見られない方のほうが稀で、全ての女性は子宮内膜症ではないかと思うほどです。では子宮内膜症としての症状が全くない方と強く出る方がいるのは何故でしょう。通常、お腹の中にあるべきではない組織がお腹の中に出現すると免疫の力が排除してくれるはずですから、そういった免疫の差が関係しているのではないかという説もありますが、これもまだ良く分かってはいないのです。
子宮内膜症が発症する場所は様々です。横隔膜や腸管内、なんと肺から内膜症の組織が見つかったこともありますので本当に様々ですが、多いのはやはり子宮壁、卵巣、卵管です。ですから、やはり生理痛がひどくなり日常生活に支障が出てきたという段階で受診され、子宮内膜症ですね、と診断される方が圧倒的に多いわけです。患者さんにしてみれば、市販の痛み止めで何とかなってるから病院にかかるほどではないと考えるのは無理もありませんが、痛み止めは痛みを取っているだけで、上で述べた子宮内膜症の根本原因に対処しているわけではありません。つまり痛みが取れて治ったと思っている間にも内膜症が進行している可能性があるということです。以前にも述べましたが、厚生労働省の調査によると、月経困難症の患者数は推定800万人以上とされていますが治療を受けている人はその10%程度にすぎません。また海外のデータではありますが、機能性月経困難症と診断された患者さんの実に約70%が子宮内膜症を発症していることもわかっています。早めの受診が望まれます。

来週はこの続きを。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2023.12.22更新

「月経困難症の原因②子宮腺筋症〜女性が知っておきたい疾患〜」

このところ月経困難症についてお話させていただいています。いわゆる生理痛のことですが、生理のたびに強い痛みなど生活に支障が出るほどになったら月経困難症ですね、ということは以前に述べました。この月経困難症の原因として、子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮内膜症などがあり前回の子宮筋腫に続いて、今回は子宮腺筋症について述べます。

子宮腺筋症は一言でいえば「子宮の筋肉が厚くなる」疾患です。子宮筋腫は子宮の筋層に筋肉の瘤(こぶ)が出来ますが、子宮腺筋症は子宮の筋肉そのものの全体または一部が厚くなる状態です。子宮筋腫と同様に良性の腫瘍でがんではありませんが、女性ホルモンによって大きくなりますので少なくとも月経のある間は子宮筋層が厚くなり、結果として子宮全体が大きくなる可能性が高いです。原因としては、子宮内膜のような組織が子宮筋層に発生し、そこに女性ホルモンが作用し病変部位およびその周囲の子宮筋層が肥厚する、などが考えられています。この子宮腺筋症病変による子宮内膜の拡張・変形、子宮筋の線維化による子宮収縮のアンバランス化などで、子宮収縮が異常に亢進し、月経過多、不正出血、月経困難などの症状が引き起こされることが想定されています。
治療法も子宮筋腫とほぼ同様です。前回のコラムを見てみて下さい。
薬物療法について追加を2つ。
まずGnRH アゴニストです。GnRHとは卵巣から出される女性ホルモンを調整するために脳から出ているホルモンです。このGnRHを抑えることで女性ホルモンを抑えるということです。子宮腫大に対する縮小作用は最も有効とされますが、抗エストロゲン作用の副作用としての骨量減少の懸念から、最長6カ月間という投与制限があります。当院ではレルミナを採用しており、皆さんに大変喜んで頂いています。
次にLNG-IUSです。これは主に排卵後に分泌されるプロゲステロンというホルモンを付加したT字型の子宮腔内装着器具です。一度装着すると、毎日平均20㎍のプロゲステロンを子宮腔内に5 年間放出し、子宮内膜を萎縮・菲薄化させることで、過多月経・月経痛・慢性疼痛・子宮腫大のいずれにも有意な改善が示されています。ですので定期的にチェックはしなければいけませんが、一度入れたら不都合無い限り5年間入れたままです。ネットには装着時痛みを伴うといったことが載っているようでドキドキしながら来院される方もいらっしゃいますが、私が実施した方に痛みを強く訴える方はいませんし、その後は入ってることも意識することなく過ごす方がほとんどです。ただ大きな子宮筋腫があると装着できないことがあります。当院ではミレーナを採用しています。

次回は子宮内膜症についてお話します。
本年のコラムは今回で最後です。また来年。
どうぞ良いお年をお過ごしください。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

 

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2023.12.15更新

今日は月経困難症の原因の一つ、子宮筋腫について
子宮筋腫は、子宮の壁に出来る腫瘤(こぶ)のことです。30歳以上の日本人女性の20-30%にみられますので、決して珍しい疾患ではありません。良性の腫瘍でがんではありませんが、女性ホルモンによって大きくなりますので、メカニズム上は少なくとも月経のある間は大きくなる可能性が高いです。また多発性と言っていくつもできることがしばしばで、数や大きさやできる場所によって症状が違ってきます。
症状としては月経量が多くなることと月経痛、つまり月経困難症です。その他に月経以外の出血、腰痛、頻尿(トイレが近い)などがあります。一般に子宮の内側にできた筋腫は小さくても症状が強く月経量が多くなります。逆に子宮の外側にできた筋腫は大きくなっても症状がでない傾向があります。そのため治療必要かどうかも、できた場所や症状によって異なってきます。不妊、習慣流産などの原因となることもあります。
まずは超音波検査で診断しますので、気になる方はチェックを受けると良いでしょう。また市の子宮がん検診等で偶然見つかることもあります。
治療法には手術と薬があります。手術は子宮全摘術(子宮ごと取る)と筋腫核出術(筋腫だけ取る)があります。方法は開腹と腹腔鏡補助下手術があります。もちろん筋腫が小さく症状の無い場合は治療の必要はありませんが、一般に筋腫径が8cmを超えると腹腔鏡下の手術は困難になります。何の症状もなく知らないうちに大きくなってしまい、もはや開腹手術しか選択肢が残されていないなんてことにならないように定期的なチェックで大きさを把握しながらタイミングを逃さないようにしてあげたいと思っています。
子宮筋腫を根本的に治す薬は今のところありません。でも筋腫は女性ホルモンで大きくなりますからこのホルモンを抑えてあげればいいわけです。でも女性ホルモンが少なくなるということは、いわゆる閉経の状態にするということで偽閉経療法と呼ばれます。この療法で子宮筋腫を小さくしたり、出血や疼痛などの症状つまり月経困難症を軽くすることができます。もちろん女性ホルモンの分泌が少なくなるので更年期様の症状がでたり、骨量が減少するおそれがあるため長期(半年以上)の治療できません。ですから薬による治療は、手術前の一時的な使用や、閉経が近い年齢の方などの一時的治療、逃げ込み療法などと呼ばれます。

次回は子宮腺筋症について。
そろそろ年も押し迫ってまいりました。どうぞ生活のリズムが乱れることのないようご自愛ください。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2023.12.08更新

今回から数回、月経困難症についてお話しようと思います。

いわゆる生理痛のことですが、生理は本来はそれほど痛みを伴うものではないため、生理のたびに強い痛みなどの症状が現れ、生活に支障が出る場合、月経困難症と考えられます。生理痛は我慢するものと考えている方があまりに多いのですが、月経困難症を治療せず我慢していると、そもそも生理痛を生じる原因となる子宮、卵巣その他の病変を見逃してしまう事にもなりかねません。市販の鎮痛薬を使用していても毎月症状がある場合は早めに受診するようにして頂き、診断をつけることが大変重要になります。
月経困難症には、機能性月経困難症と、器質性月経困難症の2つのタイプがあります。
機能性月経困難症は、子宮、卵巣には外見上何ら病変、問題が見つからない場合です。この場合、月経時子宮を収縮させるホルモンが出ますが、そのホルモンにより子宮などが過剰に収縮することで痛みが強く出てしまったり、あるいは子宮の出口が狭いことで経血が出にくかったりして症状が出ます。収縮が原因であることが多いですから、痛みは月経1、2日目が強いです。若い方に多く、大抵は20代前半でおさまります。子宮、卵巣はお腹の中の臓器ですから、子宮・卵巣に外見上問題無いかは超音波等の画像診断によります。痛みが強い場合は、NSAIDsなどの鎮痛薬を用いてやわらげますが、必要に応じて漢方薬、子宮収縮抑制薬、ホルモン療法や精神安定剤を使用することになります。
子宮や卵巣に病変がある場合を器質性月経困難症といいます。病変は子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮内膜症などです。これらは機能性月経困難症のように時が経てば自然治癒するということはありません。これらの病変は超音波等で確認することが大切です。後述しますが、これらは進行しますから原因に合った治療が必要になります。痛みも機能性月経困難症と違い、持続性で、月経期間中に痛みがずっとある、あるいは排卵時など月経期以外にも痛みが見られることがあります。
いずれにしましても、まずは診断をつけることが大切です。市販の鎮痛剤が効かなくなった、あるいは効きが悪くなったら必ず受診して下さい。

次回からは、子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮内膜症など器質性月経困難症の原因となる疾患について順を追って触れていきたいと思います。
本格的な冬到来。生理痛もしんどくなる時期です。ご自愛ください。

根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2023.12.01更新

こんにちは。だいぶ冬らしくなってきましたね。
本日は卵子凍結について。なぜかこのところ外来で度々ご質問頂くので。

ご存じのように卵子凍結はご自身が出産できるタイミングまで卵子を冷凍保存することです。卵子を卵巣から取り出し超低温で凍結させそのまま保存します。超低温では老化という変化がほぼ起こらないため、理論上は数十年間にわたり現在のままの卵子を保存することができます。妊娠は体外受精、胚移植になります。卵子凍結は癌などで抗がん剤治療が優先され治療で卵子・胎児に影響が出る心配がある方などのために、治療が終わり妊娠可能になった時に安心して妊娠して頂けるようにと開発された技術です。この技術を健康な女性にも将来の妊娠に備えて応用できるようになったということです。「将来パートナーができたときのために卵子凍結をしたい」、「仕事の状況で今は妊娠、出産、育児が難しい」などの理由で、卵子凍結を選択する人も多いようです。
卵子を保存するためには、当然、卵巣の中にある卵子を取り出さなければなりません。これを採卵といいます。採卵は膣から細い針を刺して卵巣内の卵胞を吸い取ります。もちろん麻酔下に行いますがそれなりに負担がかかりますので、できれば一回の採卵手技で多くの卵胞を回収した方が良いということになります。そのため採卵前には排卵誘発剤を使い卵巣内で複数の卵子を育てます。排卵誘発剤はホルモン剤ですので頭痛、倦怠感やむくみなど副作用がある場合があります。
卵子凍結保存には卵子の老化を止め将来の妊娠に備えられる可能性がありますが、今がその時なのかを知りたいという方が以前のこのコラムを読んでくださり質問してくれたようです。これはひと言で言いますと、卵巣にどれらくい卵子の残りがあるかにかかっています。卵子の元となる原始卵胞の数は生まれた時がマックスです。以後は減る一方で精子と違って新しく作られることはありませんので、年齢相当の卵子が残っているかどうかが問題になります。これは以前お話したAMHというホルモンで調べることができます。
いずれにしても、年令と共に子宮、卵巣の病気が増えることは間違いありませんし、卵子の染色体異常が出現する可能性が高くなることも明らかですので、卵子凍結によって卵子の時間を止められることにメリットを感じるのもうなずけます。
ので、あえて卵子凍結の現実についても触れておきます。まず採卵した卵子ですが、凍結する途中で卵子が壊れてしまったり、逆に妊娠を目指し元に戻すため融解する時に変化したりしてしまう可能性があるため、全ての卵子が胚移植に使用出来るわけではありません。海外のデータを含みますが、凍結未受精卵子を用いた胚移植で妊娠が成立する確率は17~41%です。さらにそこから流産や死産などで妊娠が中断してしまうこともありますので、結果、卵子1個から出産にまで至るのは4.5~12%です。
最後に、卵子凍結をするということは、間違いなく妊娠、出産が先送りになるということです。妊娠、出産ということだけを考えれば、年齢が上がれば妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病のリスクが上がり、早産や低出生体重児のリスクが上がることも明らかになっています。ご自身のライフスタイルも合わせ良くお考えになって下さい。
こうしたことも踏まえ、我々の所属する日本産科婦人科学会はこの卵子凍結に関する動画を公開しています。学会のホームページからどなたでもご覧いただけますので参考にして頂くといいと思います。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2023.11.24更新

今回は、40代以降の女性に多い、手のしびれ、痛み、腫れについてです。

このコラムでたびたび更年期障害について述べてきました。更年期の不調というと、滝のように汗が出る、ホットフラッシュ、首や肩がひどくこる、不眠、不安感や抑うつ感といった症状のイメージが強いかもしれませんが、腰痛や関節痛を訴えたりする人もみられます。特に手指がしびれ、痛みが出てきて、気がつくと手指の関節が腫れてきていた、などと訴える方が多いです。これらの不調については、「長年に渡る手の使い過ぎ」はたまた「年のせい」などと考えあきらめている方が多いです。もちろんそうした手指関節の腫脹については、リウマチなど自己免疫疾患の現れであることもありますので精査が必要ではありますが、更年期に減少してくる女性ホルモンであるエストロゲンが関与している可能性があることが分かってきました。これはエストロゲンには関節の動きを維持したり、腱を保護する働きがあることが分かってきたからです。更年期の時期、手指の関節の動きが悪くなり痛くなってきた、痛いから手を強く握れなくなったなどの状態を放置していると、さらに炎症が進み、腫れ、しびれを伴うようになると、やがて指が関節から変形するといった症状が現れるため注意が必要です。この手指関節の腫れ、変形は長年にわたって家事をし続けている中高年の主婦によく起こり、ヘバーデン結節( Heberden's node)やブシャール結節(Bouchard node)などと呼ばれていますのでご存じの方も多いかと思いますが、この原因が急激にエストロゲンが減少するのを放置することである可能性があるということです。ホットフラッシュなど典型的な更年期障害の症状は比較的急激に発症するので、「そろそろ私も?」と気がついて頂くことも出来ますし、発症が急なだけホルモンを補充することの効果も比較的早く期待できます。しかし関節の変形は、その変形が完成してしまったら元に戻すことは容易ではありません。そこで早めの対策が大切になるということになりますが、ここで知っておいて頂きたいことは、実はこのエストロゲンの減少、30代半ばから徐々に始まっているということです。ですから早めの対策とは、30代の内からエストロゲンの減少に備えて頂くということです。とはいえHRT(ホルモン補充療法:前出のコラムを参照ください)の適応となるほどエストロゲンが減少しているわけではありませんし、また30代からHRTというのもかなり抵抗あるでしょうから、エストロゲンと似た化学構造を持ちエストロゲンと同じような働きをするエクオールを摂取することをお勧めしています。エクオールは大豆などに含まれるイソフラボンの代謝産物であるため、豆腐などたくさん摂ればいいということになりますが、話はそう簡単でないことはこのコラムで以前かなり詳しく説明しておきましたのでご覧頂くといいと思います。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2023.11.17更新

今日は、早発閉経についてお話させてください。
日本人の閉経の平均年齢は50才と言われていますが、それよりも10年以上早く閉経してしまう方がいらっしゃいます。鬱陶しい生理が無くなり清々したと言う人もいますが、喜んでいる場合ではありません。無月経、つまり3カ月以上月経がないという状態になったということは、それまで生理を回していた女性ホルモンが無くなった、あるいは働くなった可能性があります。この卵巣の機能が低下するという状態を卵巣機能不全といい、40歳未満で無月経となる場合を早発卵巣不全(premature ovarian failure:POF)といいます。POFは40歳未満の女性の1%に起こりうる決して少なくない病態です。POFを発症する要因は様々考えられていますが多くの場合原因不明です。細かい話をしますと、POFには卵巣内の卵胞がほぼ無くなってしまう早発閉経と、卵巣内にまだ卵胞はあるけれどもホルモンに対し反応しなくなり結果として無排卵・無月経となるゴナドトロピン抵抗性卵巣症候群の2つが考えられています。
いずれにしても、この女性ホルモンが無くなった、働くなったという状態を人よりも10年早く迎えるということは、人よりも10年長く女性ホルモンが不足しているという状態を経験せざるを得ないということです。
先ずこれは人よりも10年早く更年期障害に見舞われるということを意味します。更年期障害につきましては以前このコラムで触れましたのでご参照下さい。更年期障害も大変ですが、より心配なのは高コレステロール血症と骨粗鬆症です。女性ホルモンが月経を回すだけではなく、根本的な女性の健康に貢献している、具体的にはコレステロールを分解する働きと、骨代謝を調整する働きがあることは前回のコラムで述べました。ですから、人よりも10年早く閉経するということは、人よりも10年早くコレステロールを分解してくれる人がいなくなる、あるいは骨を作る人がいなくなるということですから、高コレステロール血症による脳卒中、心筋梗塞等のリスク、そして骨粗鬆症による骨折のリスクが高まってしまうわけです。
ですから、40才未満で3カ月以上月経が無い場合は、必ずホルモン値の血液検査に来てください。また卵巣内に卵胞がまだあるか心配な場合は抗ミュラー管ホルモン(Anti-Mullerian Hormone:AMH)というホルモンを測定することで分かります。検査の結果POFと診断されても、不足したホルモンを補えばいいだけです。ホルモン補充療法(Hormone Replacement Therapy:HRT)につきましても以前のコラムで述べましたので見て下さい。

その他、女性ホルモン、エストロゲンには丸みを帯びた女性らしい身体作り、頭髪や皮膚に潤いを与える等健康的な身体を作る役割も果たしています。思い当たるときは、まずご相談にお越し頂くといいと思います。自身の体験も含め、経験豊富で優秀な女性スタッフも相談に乗ってくれますよ。ものすごく良く勉強しています。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

2023.11.10更新

過ごし易くなってきました。一気に冬に向かいそうです。このコラム、先週(11/3)は祭日でしたのでお休みでした。

前回、更年期中についてお話しましたが、今日は更年期後にご注意いただきたいこと。
市や職場の健康診断でコレステロールが急に上がり、びっくりして駆け込んでくるという方がしょっちゅういらっしゃいます。「若いころに比べて脂っぽい、美味しいものばかり食べてるわけではないのに何で?…」などとやや怒り気味で(笑)。ご存じの通りコレステロールが高いと動脈硬化が進み、脳卒中や心筋梗塞などになりやすくなるなどと言われているのでご心配はもっともです。実はこれ、更年期以降の女性の、ある意味宿命といえることです。と言いますのも、それまで潤沢に分泌されていた女性ホルモン(エストロゲンと言います)は、生理をうまく回したり、妊娠する条件を整えたりするだけではなく、実はコレステロールを分解するのに役立つ、つまり肝臓での特に悪玉コレステロールの代謝を促進する働きをしていたのです。つまり男性と比べて女性は、「若いころはエストロゲンに守られていた」と言っても過言ではありませんが、更年期以降、それまでコレステロールを分解してくれていたエストロゲンが少なくなるわけですから、当然コレステロールが分解されずに残ってしまう、つまり高コレステロール血症になりやすいということです。ですから、更年期以降はこれまで以上に食事に気を使い、適度な運動を心がけて頂くとともに、血液検査等定期的なチェックをお願いします。
次に骨粗鬆(こつそしょう)症。骨粗鬆症は、骨が軽石のようにスカスカになってしまい、骨がもろく折れやすくなる状態です。いったん骨折すると寝たきりになってしまうこともあります。骨も皮膚や髪と同じように新陳代謝を繰り返しています。古くなった骨は壊され、新しい骨が補われています。この古くなった骨を壊す細胞を破骨細胞といい、新しい骨をつくる細胞を骨芽細胞といいますが、この破骨細胞が骨を壊すスピードと、骨芽細胞が骨をつくるスピードの絶妙なバランスで骨量が安定し強さが保たれているのです。一方、エストロゲンには破骨細胞の働きを適度に抑制する働きがあります。つまりエストロゲンが少なくなると、骨を壊すスピードが抑制されず壊され過ぎてしまうため骨量が減ってスカスカになってしまうわけです。ですから更年期以降、骨に対しても骨を強くするための若いころ以上の食事の注意、適度な運動が必要であることは言うまでもありません。またこの骨の変化は痛みが出る、あるいは骨折するまで気がつかないことが多いですから、定期的な骨量測定などのチェックをお願いします。

今回は更年期以降ご注意いただきたい、特に高コレステロール血症と骨粗鬆症についてお話させて頂きました。次回は40才未満で閉経に至る早発閉経についてお話しましょう。
根本産婦人科医院 院長 根本 将之

投稿者: 医療法人社団凌雲会

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